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【コラム】同乗者についても同じ弁護士に依頼できるか?

2023-01-30

交通事故の被害者に同乗者がいる場合

 交通事故の被害者の車に同乗者がいた場合、その同乗者も加害者に慰謝料などの損害賠償請求ができます。この場合、追突など過失割合が10:0の場合は、そのまま加害者に請求すれば問題ありません。(追突でも例外的に被害者側にも過失がある場合は別途検討が必要です)

 では、9:1、など、被害者側にも過失がある場合は、いかがでしょうか? この場合、同乗者の方は、過失割合に応じて加害者と被害者側の運転者に請求しても良いのですが、実は、全額をいずれかに請求することができます。なぜなら、双方に過失がある場合、双方の運転者は被害者に対して不真正連帯債務を負うと解されているからです。

 なお、片方が全額を支払った場合は、支払った方は、過失割合に基づいてもう片方に求償の請求ができると解されます。したがって、公平は保たれると考えられます。

 

同乗者も同じ弁護士に依頼できるか?

 では、被害者の車に同乗者がいた場合、同乗者も被害者(被害車両の運転手)とともに同じ弁護士に依頼して加害者に損害賠償請求をすることができるでしょうか?

 実は、ここで、場合により、同じ弁護士への依頼が難しい場合があります。まず、被害者側に過失がない場合は問題ありません。例えば、追突された車に複数の人が乗っていた場合、弁護士はその全員から依頼を受けることもできます。この場合、加害者側の車の運転手に請求することになります。

また、被害者側の運転者にも過失がある場合でも、同乗者が家族の場合は基本的に問題ありません。しかし、家族以外の場合、いずれ、同乗者から運転者へ損害賠償請求をすることになる可能性があります。前述の通り、同乗者は双方の運転者のいずれに対して請求しても良いのですから、被害者の側の運転者に請求することも考えられます。また、加害者側に請求して加害者が求償権を行使して被害者側の運転者に請求すれば、やはり、被害者側の運転者の不利益になります。そうすると、被害者側の運転者から依頼を受けている弁護士から見ると、自分の依頼者と利害関係が対立するとも考えられます。いわゆる利益相反です。そこで、このような場合、被害者車両の運転者と同乗者の両方から同じ弁護士が依頼を受けることは難しくなってしまいます。このような場合は、同乗者の方は他の弁護士に依頼することが望ましいと言えます。

 

同じ弁護士に依頼できる場合・できない場合(まとめ)

以上をまとめると、

被害者に過失がない場合・・・同じ弁護士に依頼できる

被害者に過失はあるが同乗者が家族の場合・・・原則として同じ弁護士に依頼できる

被害者に過失があり同乗者が知人や友人の場合・・・原則として同じ弁護士に依頼できない

となります。なお、これは原則であり、例外もありますので、まずは弁護士にご相談ください。

【コラム】後遺障害がない場合に依頼して費用で損をしませんか?

2021-12-09

1,交通事故の補償の決まり方

 交通事故の補償は、

・入通院慰謝料

・休業損害

・通院交通費

・文書代

・入院雑費

・付添い費

など後遺障害がなくても発生する(どの項目が発生するかは案件に寄りますが)ものと、

・後遺障害慰謝料

・逸失利益

など後遺障害がないと発生しないものに分かれます。

 

2,後遺障害がない場合の補償の金額

 後遺障害がない案件でも、補償の額は怪我の程度などにより異なります。慰謝料は基本的に入院や通院期間が長いほど多くなりますが、怪我の程度により基準となる表が異なります(2種類あります)。また、通院だけより入院がある方が多くなります。休業損害は基礎収入(事故前の収入)と休業期間により決まります。

 後遺障害がなくても、それなりに金額が多くなることはあり、例えば、赤い本Ⅱで計算する時(むち打ちで他覚所見がない場合など)に6ヶ月通院したら(入院がない場合)慰謝料は「赤い本」基準(裁判基準)で89万円となり、休業損害もあれば保険会社から支払われる額が100万円を超えることも珍しくありません。

3、後遺障害がある場合の補償額

 後遺障害がある場合は、上記に加えて、後遺障害慰謝料と逸失利益が追加されます。後遺障害慰謝料は1級から14級までの等級に従って算出され、「赤い本」だと14級だと110万円、12級だと290万円、など、等級に応じて基準があります。一方、逸失利益は基礎収入に、等級に応じて決まる労働能力喪失率(14級だと5%、12級だと14%など)と、期間に対応するライプニッツ係数を乗じて決まります。

 後遺障害慰謝料と逸失利益が加わる分、後遺障害がない場合よりかなり金額が大きくなります。

4,後遺障害がない場合でも弁護士に依頼して費用で損にならないか?

 そうすると、後遺障害がない場合、比較的補償される金額が少ないのに弁護士費用を払うとかえって損をしないか、心配になる方もおられると思います。

・弁護士特約が使える場合

 弁護士特約が付いていれば弁護士報酬を保険会社が払ってくれるので、ご自身が負担をすることはありません(弁護士特約の上限を超えるような大きな事故の場合は別ですが、後遺障害がない場合にそこまで大きくなる可能性はほとんどないと思います)。したがって、弁護士特約がある場合は、費用を気にせずご依頼頂くことができると思います。

 弁護士特約はご家族のものが使えることもあれば、自動車保険以外の保険に付されていることもあるので、使えるかどうかよくわからないという場合は、契約している保険会社に問い合わせてみると良いでしょう。

・弁護士特約がない場合

 弁護士特約がない場合ですが、「後遺障害がなく、かつ、裁判もしていない場合」は、当事務所の費用は成功報酬として「11万円(本体10万)+11%(本体10%)」となっており、後遺障害がある場合や訴訟をした場合の「22万円(本体20万円)+11%(本体10%)」より低く抑えています。また、すでに提示がある場合には、「弁護士報酬(税抜)を交渉により増えた分の半分以下に抑える」特例でご依頼頂ける場合もあります。

 実際に依頼をしたことで得をしたかどうかというのは、提示後の御依頼の場合を除いてなかなか明確にはわかりにくいかもしれません。しかし、一般的に保険会社からの提案は慰謝料に関して自賠責とあまり変わらない場合も多く、任意保険会社内部の基準でも裁判基準と比べてかなり低いことが多いのは事実です。そうすると、一般には弁護士に依頼することで慰謝料が増額できることが多いということができます。また、弁護士に依頼頂ければ、相手方保険会社とのやり取りを弁護士が行うのでご本人様は相手方保険会社とやり取りをする負担がなくなること、法的に正当な額での補償を求めることができる、というメリットがあります。

 もちろん、弁護士が入っても完全に希望通りの補償額になるとは限りませんが、「赤い本」の基準(裁判基準)に近いところで示談できることが大半であり(過失相殺による減額は別として)、また、休業損害の交渉も専門家が行うことで金額が増えることもあります。過失相殺の主張に関しても、弁護士は専門的見地からしっかりと主張をさせて頂きます。このように、解決へ向けた過程で専門家によるサポートを受けることができるというメリットがあるので、その点も含めてご依頼するかどうかは、ご検討頂ければ、と思います。

 いずれにせよ、相談だけなら無料なので、まずはご相談ください。お電話か電子メールでご予約の上、ご来訪をお願いします。(負傷で動けないような場合には、電話相談やweb 相談での面談ができる場合もあります)

【コラム】事故車両の写真が必要となる場面

2021-09-06

事故車の写真について

交通事故による損害の補償において、事故に遭って損害した自分の自動車の写真が必要になる場面がいくつかあります。この記事では、そういう場面について解説したいと思います。

物損に関して

まず、事故に遭った車を修理する場合、相手方保険会社と打ち合わせをしてから修理したほうが修理代を巡って揉めるリスクを避けることができるという意味で望ましいです。具体的には、相手方保険会社と修理工場で協議をして、協定を結ぶという作業が終わってから、それに従って修理をすれば、相手方保険会社から修理代の妥当性を巡って争われるという事態を避けることができます。そのための資料として、相手方保険会社は資料として事故車両の写真を送るように求めてくるのが一般的です。

また、全損扱いで廃車にする場合も、全損としての処理をして問題ないかの確認のために同様に写真を求められるのが一般的です。相手方保険会社から見ると、工場の見積もりだと修理代が車両価値を上回っていても、本当にそれで問題ないのか、確認するために写真を見たいということだと思います。

事故の態様や衝撃の証拠として

人身損害についての交渉や訴訟でも自動車の破損状況を示す写真が証拠として用いられることがあります。すなわち、傷の位置から衝突の態様を推測して過失割合算出の資料としたり、自動車の破損の程度から事故の衝撃を立証する、などの場面で事故に遭った車両の写真が必要になります。

事故車両の写真の撮り方

では、事故車両の写真を撮るとき、どのように撮れば良いのでしょうか? 目的によって異なる場合もあるので、ここでは物損の資料として用いる場合の一般的な要点について述べようと思います。物損の資料として用いる場合、①全体が写っている写真 ②損傷した部分の写真 ③ナンバープレートが写っている写真 が必要だと考えられます。今はデジタルカメラでの撮影が一般的であり、フィルム式カメラと違って多数撮影しても特にコストは増えないので、上記3点に気を付けつつ、多めに写真を撮って、しっかりと記録を残すと良いと思います。

なお、交渉や訴訟で証拠として用いるということを考えると、写真はできる限り早く採る方が良いと思います。なぜなら、事故から時間が経ってから撮影すると、もし傷があっても、その後に損傷したのではないかと主張される恐れも出てくるからです。

事故車の修理費用を巡って困っている方はご相談を

事故車の修理費用について、相手方保険会社との交渉に困っている、悩んでいる、という方は、ぜひ、弁護士にご相談ください。保険会社との交渉などのやり取りを被害者の方に代わって弁護士が行うことができます。

【コラム】被害者の過失・・相手方への支払い義務が生じうることに気を付けよう

2021-08-31

過失割合とは?

過失割合は、ある事故について、どちらの当事者にどれだけの比率で過失があるか、という割合のことです。例えば、信号待ちで止まっている車に後続車が追突すれば、原則として10:0で後続車に過失が認められます。あるいは、直進している車と隣の車線からの進路変更の車が衝突した場合は、原則は進路変更車が7,直進車が3,の過失として、7:3の過失割合となります(ただし、速度違反、脇見運転、酒気帯び、などの事情により変動します)。
このように、個々の事故について、各当事者の責任の割合を決める必要があります。

過失割合は誰が決めるか?

過失割合は、交渉であれば、両当事者の合意で決めれば良く、裁判の場合は、判決まで進める場合は裁判所が判断します。裁判でも途中で和解をする場合は、当事者間での合意に従って、ということになります。

被害者の過失と相手方への賠償

被害者にも過失がある、となると、もらえる損害賠償の額が減ってしまう、ということがまず思い浮かぶと思います。例えば、後遺障害等級14級の慰謝料は「赤い本」だと110万円だけども、被害者にも1割過失があれば、1割減って99万円になってしまう、通院6か月の通院慰謝料は「赤い本」表2(軽度のむち打ちなどの場合用の表)だと89万円だけども過失1割だと約80万円に減ってしまう、というようなイメージを持つ方も多いと思います。
それは間違ってはいません。もっとも、損害賠償は慰謝料だけではなく、治療費、休業損害、逸失利益、交通費、文書代、など案件によりますが様々な項目があるので、それを合計した額を損害額として、そこから被害者側の過失分を差し引くという方法を採るので、すでに満額でもらっている項目がありそれが多額だと、これから請求できる分が思ったよりも少ないこともありますので、注意が必要です。
ただ、ここで気を付けたいのは、単に請求額が減るだけではないということです。すなわち、被害者側にも過失があるということは、相手方に損害があれば、その損害を過失割合に応じて補償しないといけないということです。もし、被害者が歩行者で、加害者が四輪自動車の場合、自動車に乗車中の人に負傷が生じるケースは少ないですし、自動車が損傷することも少ないと思います。そうすると、仮に歩行者側にも過失があったとしても、その請求できる損害賠償の金額が減るだけで済むことがほとんどでしょう。
しかし、四輪車どうしの事故や、バイクどうしの事故、あるいは、四輪車とバイクの事故、では双方に乗車している人の負傷や車の損傷が生じることが珍しくありません。そうすると、被害者といえども、過失があれば、相手方に生じた損害を賠償する義務を負ってしまうのです。
例えば、四輪自動車同士の事故を考えてみましょう。A車が駐車場から本線に進入してきたときに本線を走行していたB車と衝突して起きた事故で、過失割合はAが8,Bが2,だとします。すなわち、過失割合は本線を走行していた車が2,進入しようとしていた車が8,ですが、ここでは、進入しようとしていたA車は横から衝突されたために人・車ともより大きなダメージを受けたと仮定します。
ここで、Aは負傷し、治療費や慰謝料など300万円の損害を受けたとします。A車も損傷し、修理代など物損は50万円とします。そうすると、A側の損害は合計350万円なります。一方、Bは負傷しましたが後遺障害はなく治療期間も短かったため損害は治療費や慰謝料など合計しても70万円、B車の物損は修理代として20万円、合計90万円の損害だとします。
そうすると、基本的にBが被害者といえるでしょう。そこで、BはAに対して、損害90万円のうち8割の72万円を請求できることになります。では、Aからみるとどうでしょうか? 損害350万円のうちBの過失に相当する2割、すなわち、70万円分をBに請求できることになります。
そうすると、もともとの過失はAのほうが大きいのに、互いに請求できる額はほとんど同じになってしまいます。
これは少し極端な例ですが、被害者だと思っていても、相手方の損害が大きいと、それなりに賠償しないといけないことがあります。もっとも、自分の責任分には自分の保険を使えれば実際に支出するわけではなく、人身損害については一定範囲で自賠責保険も使えますが、自分の任意保険で支払ってもらう場合には保険料が上がるなどのデメリットもあり、示談交渉をするときには、被害者側であっても、相手方の損害の有無と過失割合には留意する必要があります。また、改正民法では、人身損害について相殺できないのは従前と同じですが(509条2項)物損分については相殺することも可能なので、その点にも注意が必要です。
なお、これに関連して、9:0という不思議な過失割合で示談するケースがあります。これは、被害者側にも1割の過失があるとも思われる場合に、被害者は自身の損害賠償請求額が本来より1割減ることは受け入れる代わりに、相手方の損害への賠償はしない、という形で示談をすることを言います。早期解決のための工夫であって、訴訟の判決でこのような解決になることは考えにくいところですが、示談交渉では行われることがあります。

まとめ

被害者側にも過失がある場合、相手方にも損害があれば、原則として過失割合に応じた損害賠償義務があることになります。そこで、示談交渉をする際には、そのことも念頭に交渉を進めていく必要があります。
過失割合については、「判例タイムズ38巻」や「赤い本」に基準が出ており、おおよその計算方法は示されていますが、事実認定やその解釈を巡り、争いになりやすい部分でもあります。もし、相手方本人や相手方保険会社から示された過失割合に納得がいかない場合は、まずは弁護士にご相談ください。

【コラム】自動車と道路を横断する歩行者の事故の過失割合

2021-08-30

自動車と横断歩行者の事故

ここでは、横断歩道や交差点以外の場所で、道路を横切ろうとしていた歩行者と道路を走ってきた四輪自動車が衝突した場合の過失割合について検討します。交差点付近や横断歩道付近でもなく、一本道を横切るような場合を想定しています。

基本的な過失割合

この場合、基本的な過失割合は、自動車8:歩行者2、です。(判例タイムズ38巻図【37】) 
一般に、自動車と歩行者の事故だと車の責任が重くなるという印象があると思いますが、たしかに、この場合、車の方の責任が重いのが原則です。自動車を運転する時には、歩行者が道路を横切ることも想定して注意しながら運転することが求められていると言えます。
もっとも、歩行者にも2割の過失が設定されており、歩行者にも道路を横切るときには自動車が来ないか注意することが求められているということができます。
ただし、以下のように、過失割合が修正がされる場合があります。

修正要素

修正要素としては、歩行者側の過失割合を増やす方向のものとして、

  • 夜間 5
  • 幹線道路 10
  • 横断禁止の規則あり 5~10
  • 直前直後横断・佇立・後退 10

があります。
タイズム38巻第1章の解説によると、夜間は日没から日の出までを指すとしたうえで、一般道路ではトンネルの中や濃霧で視界が50m以下の場合は同様に解してよいとされています。
また、幹線道路については、歩車道の区別があること、車道幅員が概ね14m以上(片側2車線以上)、車両が高速で走行すること、が要素として挙げられ、通行量の多い国道や都道府県道を想定している、としています。
横断禁止の規則あり、については、横断が禁止されているのみならず、歩車道の区別や標識、ガードレール、フェンス等の設置、などにより横断禁止であることが容易に認識できることも前提とされている、とされています。
直前直後横断については、道路交通法13条1項で禁止されているということが上記解説では理由として挙げられており、斜め横断も12条2項で禁止されているので同様に歩行者側に不利に働く、と指摘されています。

これらを検討すると、まず、夜間は車から歩行者が見えにくいので、より歩行者が注意をする必要性が高いでしょう。また、幹線道路についても、幅が太く車が多い道は自動車の走行の利便を重視して造られており、敢えて横断する場合、歩行者はより注意を払うことが求められていると考えられます。
また、横断禁止の場所の横断や直前直後の横断等は、道交法違反である以上、本来行うべきではないことを敢えて行なったということで、過失が重くなるということだと思われます。横断中にその場で佇んだり、敢えて後退するようなことも危険を増すので、加算要素になっていると考えられます。

このように、歩行者の過失は、基本は2割ではあるものの、夜間、幹線道路、道交法違反などを伴う横断の場合には過失が加算されること、がわかります。また、それぞれの加算要素は複数ある場合、足し合わせることに注意が必要です。例えば、夜間に幹線道路を横断禁止を無視して車の直前を横断しようとして事故に遭ったとすると、30~35の修正となり、歩行者側の過失減算要素がなければ、歩行者側の過失が50~55%になってしまいます。
もちろん、実情に応じて修正されうるので、必ずこの図の通りに修正されるとは限らないのですが、場合によっては、概ね5:5ないしより歩行者に不利なところまで修正されうることは念頭に置いておくと良いと思います。

一方、歩行者側の過失を減らす修正要素としては、

  • 住宅街・商店街等 -5
  • 児童・高齢者 -5
  • 幼児・身体障害者等 -10
  • 集団横断 -10
  • 車の著しい過失 -10
  • 車の重過失 -20
  • 歩車道の区別なし -5

となっています。

上記の用語に付いて、タイムズの解説は、まず住宅街・商店街等、は人の横断・通行が激しいか、または頻繁に予測される場所を想定していて、人通りの絶えた深夜の住宅街・商店街等や、郊外の住宅・商店が間隔を空けて存在する場所は含まない旨を述べています。つまり、人の横断・通行が激しい場所や頻繁に予測される場所では、自動車の運転者は横断者が現れることをより容易に予測できるはずなので、より注意すべきである、ということで、歩行者側の過失割合の減算要素(車から見れば加算要素)とされているのだと解されます。
集団横断については集団登下校を例として挙げており、数人が外形的にみて同様の行動をしていれば足りる、としています。これについては、みんなで渡るなら十分注意しなくても良い、というわけではなく、自動車側から見て気づきやすいはずなので、それにもかかわらず衝突に至った場合は自動車側の過失が重くなるということだと考えられます。
児童・幼児、については、道交法14条3項に定義があり、児童は6歳以上13歳未満の者、幼児は6歳未満の者、とされています。高齢者については、道交法に明確な規定はありませんが、タイムズの解説では、概ね65歳以上とされています。これらの者については、判断能力や行動能力が低いので特に保護する必要が高いがゆえに、その能力に応じて2個のカテゴリーに分けて過失を減算することにした旨、解説は述べています。幼児のほうが児童より年齢が低いので、より強く保護する趣旨で、減算が大きくなっています。なお、直接当てはまらなくても社会的要請によっては同様に減算要素となりうる場合があるとされています。
また、歩車道の区別のある道路かどうか、については、おおむね1m以上の幅の路側帯の有無で判断されます。
また、車の側の著しい過失は時速15km以上30km未満の速度違反、脇見運転、携帯で話しながら運転したり画面を見ながらの運転、などが例示されています。
また、重過失は、さらに過失が重い場合であり、酒酔い運転、居眠り運転、時速30km以上の速度違反、などが挙げられています。

上記をまとめると、現場の状況や道路構造に関する要素、歩行者の属性に関する要素、横断方法に関する要素、車の運転方法に関する要素、があり、それぞれ歩行者の過失を減らす要素となっています。

上記を前提に考えると、例えば、児童が集団登校中に道路を横断していて事故に遭った場合、他の修正要素がなければ、車95歩行者5の過失割合になる、ということになります。もし、その場合で、歩車道の区別がなければ、10:0で車の過失ということになります。
もっとも、歩行者側に加算要素があれば異なってきます。例えば、上記の例で集団登校州の児童が道路を渡りながらふざけていったん渡りかけた道路を後戻りしたりすると、歩行者側の過失が10増えるため、車90歩行者10になると考えられます。直前直後横断も同様です。
こう考えると、集団登校の児童を見つけた自動車の運転者には高度な注意が求められている一方、児童も道を渡るときは交通法規を守り、敢えて危険なことはしないようにすることが求められていると言えるでしょう。

まとめ

以上のように、道路横断の際の事故は、基本的には、自動車の過失が8割、歩行者の過失が2割、とされますが、様々な要素により修正されます。実際の交渉では、過失や重過失の根拠となる事実の有無の他、事故の現場が歩車道の区別がある場合や、幹線道路、商店街・住宅街等、に当たるか、あるいは、横断の態様が集団横断と言えるかどうか等、事実の評価を巡って争われる場合もあります。弁護士は、依頼者からの聞き取り、実況見分調書、ドライブレコーダーや防犯カメラ、現場の確認、その他、事案に応じて様々な手段で事実関係を把握し、証拠を集めるとともに、法律や判例(および、それを元に作られた「赤い本」や「判例タイムズ38」など)に当てはめて解釈し、相手方との交渉や訴訟に当たります。過失割合については、事実関係の調査、その当てはめ、いずれにおいても複雑な作業が必要なので、専門家の力を借りる必要性が高いと思います。
また、歩行中に車に衝突された事故の場合、たいていの場合は自分の側は賠償責任を負わないため、そうすると、自動車同士の出会いがしらの事故のように自分の任意保険の示談代行を使うというわけにもいきません。それゆえ、弁護士に相談、依頼する必要性は高いと思います。
交通事故の過失割合を巡る問題は、当事務所でも多く扱ってきました。もちろん、道路横断時の過失割合が関係する事案も扱ったことがあります。道路横断時の事故の過失割合について、加害者やその保険会社の対応に納得がいかない場合は、まずは弁護士にご相談ください。

【コラム】当事者尋問の進め方

2021-08-27

当事者尋問とは?

当事者尋問とは、裁判の当事者、すなわち、原告か被告を裁判所に呼んで尋問することを言います。証人尋問という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、民事訴訟法では、第三者を尋問する手続きを証人尋問、当事者を尋問する手続きを当事者尋問と呼んで、区別しています。

当事者尋問の内容は、調書に記録され、証拠となります。ただし、交通事故訴訟でいえばドライブレコーダーの画像や防犯カメラの画像のように客観性がある証拠と比べると、証拠としての力が弱いという面はありますが、裁判官が当事者の供述を直接聞くことができる手続きであるため、重要な証拠方法であることに違いはありません。また、陳述書のように一方的に述べたものと異なり、相手方による反対尋問の機会が保障されているため、証拠としての力はそれなりにあるとも言えます。

なお、当事者尋問は、民事訴訟一般に用いられる手続きですが、この記事では交通事故に関する民事訴訟を念頭に解説を書いていきます。

どのような場合に当事者尋問が行われるか

物証(物が証拠になる場合のその証拠をこのように呼びます)のみでは争点についての判断に不十分だと思われるときで、当事者の認識している事実が争点の判断において意味を持つと思われる場合に行われます。交通事故訴訟だと、過失割合、休業の必要性、後遺障害の実態、慰謝料の額の相当性、など様々な争点について、行われることがあります。もちろん、複数の問題について、事実関係が質問対象となることも珍しくありません。

なお、当事者尋問の実施は、裁判所が一方的に決めるのではなく、当事者が申請して裁判所がそれを認めるという形で行われます。

当事者尋問の事前準備

当事者尋問は法廷で行われますが、その成否は、実はそれ以前の準備の段階である程度決まっていると言っても過言ではありません。すなわち、事前の十分な準備がなければ、当日、自分の側の当事者から良い証言を引き出すことはできず、また、何が問題かを把握していなければ、反対尋問で効果的な質問をすることもできないからです。

では、事前の準備はどのように行うのでしょうか? ここでは、交通事故被害者の視点で記事を書いていますので、当方が原告だと想定します。まず、当事者尋問を行う場合、事前に陳述書を出すのが原則です。その陳述書は、それ自体証拠となるものですが、それに基づいて尋問を行います。(この点は以前の記事に書いた通りです)

陳述書の内容は当然、本人が経験した事実を書くのですが、何に触れるべきか、どの程度具体的に書くべきか、など書き方については弁護士からアドバイスをします。そうして、出来上がった陳述書や、尋問事項書等を確認しながら打ち合わせを行います。

まず、一般的な説明として、「法廷での証言なので、必ず、記憶の通り答えてください。覚えていないときは、覚えていないと言ってください」ということと、「一問一答なので、聞かれたことにそのまま答えてくださいね」という原則を説明し、それから、具体的に、どういう内容について聞く予定かを説明し、必要に応じて、リハーサルのようなことも行います。このような形で準備をしておかないと、当事者は、いきなり聞かれたから答えられなかった、あらかじめ言って欲しかった、というようなことになりかねません。それゆえ、事前の打ち合わせは重要です。

同時に、相手方の陳述書も来ているはずなので、弁護士はそれについても検討します。ここでは、反対尋問で何を聞くべきか、を、どの事実が相手方の主張の根拠になっているか、ということから考え、それを崩すにはどうすればいいか、と考えて反対尋問の質問内容を考えます。そうして、当日に、供述の矛盾や客観的事実との不一致を導き出せれば、相手の供述の信用性は揺らいだと言えるでしょう。また、重要な事項について相手方の回答が曖昧な場合も、やはり、信憑性の低さを印象付けることに成功したと言えるでしょう。この辺りは弁護士の技術であり、基本的に当事者の方に考えていただく部分ではないので、ご安心ください。

当事者尋問の流れ

当事者尋問の当日は、まず、

原告に対して

主尋問 →反対尋問 →補充尋問

の流れで行われ、その後、

被告に対して

主尋問 →反対尋問 →補充尋問

という流れで行われるのが基本です。

主尋問は、それぞれ、その当事者の代理人弁護士が行い、反対尋問は相手方の代理人弁護士が行います。補充尋問は、裁判官による尋問です。

当事者は、メモなどの文書を見ながら回答することは例外的な場合を除いて認められません。あくまで、ご自身の記憶にあることを答える必要があります。

時間は、ケースによりますが、それぞれ、1時間を超えることはまずありません。あらかじめ、主尋問20分・反対尋問20分、などという形で時間は制限されます。(上記時間は一例です)

主尋問は、自分の側の弁護士が行うのであり、あらかじめ何を聞かれるかは打ち合わせてあるわけですから、あとは、記憶の通り回答するだけであり、それほど難しくないと思います。

問題は、反対尋問です。反対尋問は相手方の弁護士が、あなたの証言の信憑性を崩すために行います。そして、反対尋問で具体的に何をどのように聞かれるかは、相手方の弁護士以外は知らないわけです。それゆえ、何を聞かれるかわからず不安、という方も多いと思います。ただ、反対尋問は主尋問の範囲に限定されるので、実際のところは、何を聞かれるのか全く分からないというわけではありません。相手方の代理人弁護士は、あなたが提出した陳述書や当方の代理人が提出した尋問事項書を参考に反対尋問で触れることを決めているはずであり、主尋問で聞かれていない全く関係ないことを聞かれることは基本的にありません。ただ、主尋問で聞かれた事項の他に、証言の信用性に関する事項も訊けることになっているので、突然関係ないことを聞かれた、と感じることもあるかもしれません。全く無関係な質問やその他民事訴訟規則で禁じられているとも受け取れる質問であれば代理人が異議を述べることもありますが、そうでなければ、慌てずに、記憶しているところを答えて頂くということになります。

当事者尋問の後

当事者尋問は、それを元に調書が作成されます。調書には尋問内容が文字化して記載されており、これは証拠となります。証拠にするために特に手続きは必要なく、その後準備書面を出す場合は、そのまま引用することができます。(ただ、当日終結のことも多いです)

*なお、簡裁の場合は調書作成が省略されることもあります。

また、当事者尋問を行なった日は、双方の当事者がそろっているということで、和解の話し合いが行われることも多いです。和解が成立すれば、そこで裁判は終わります。

和解が成立しなければ、尋問後は、それほど期日を入れずに結審となることが多いです。なぜなら、尋問は双方の主張が出尽くした後に行われるのが基本だからです。もし、早い段階で尋問をしてから争点が出てきたら、それについて再度尋問を行うのかということになり、効率が良くないので、そういうことはせず、双方の主張が出そろってから最後のほうに行うことになっています。

まとめ

当事者尋問は客観的な証拠と比べると証拠としての力は強くはないと考えられますが、反面、裁判官が直接当事者から話を聞いて心証を得る事ができる貴重な機会であり、案件によっては、結果に影響を与えることは充分にあり得ます。それゆえ、事前に弁護士とよく打ち合わせて、充分準備をした上で臨みましょう。

【コラム】陳述書とは何か?

2021-08-26

「陳述書」についての疑問

交通事故についての裁判で、陳述書を出す場合があります。陳述書というのは、どういうものでしょうか?  また、どういう意味があるのでしょうか? これらの疑問について今日はお答えしようと思います。

なお、ここでは民事訴訟について解説させて頂き、刑事訴訟については触れないことにします。

そもそも陳述書とは?

陳述書とか、当事者(原告、被告)や、第三者が、事実関係などを書いて裁判所に証拠として提出する書面です。証拠ですので、主張を書いた準備書面等とは意味が異なります。すなわち、訴状や答弁書、準備書面、は当事者が自らの主張や、相手方の主張に対する認否を述べるために提出するものであり、準備書面等にいくら自分自身が経験したことを書いても、それは証拠とはなりません。もちろん、それは、こういう事実があったという主張にはなるので、法律上の効果を生む事実であれば記載すべきなのですが、それとは別に証拠が必要です。

そこで、当事者や目撃者に事故に関する事実について書面に書いてもらって、提出することがあります。これが陳述書です。

なぜ陳述書が必要か?

物証がある場合、例えば、ドライブレコーダーの画像、防犯カメラの画像、などは強力な証拠になりますが、それらがない事案も多くあります。また、あったとしてもそれだけで充分とは限りません。それらの画像に出ていない情報が必要なこともあります。また、画像がなく、実況見分調書から事故時の状況を立証しようとすると、警察官が業務の上で作成したものなので一般的な書類よりは信憑性はあるとはいえ、やはり、一種の間接証拠なので、当時の状況を適切に表しているとは限りません。

そこで、当事者や目撃者から経験したことを裁判所に直接伝える手段として陳述書が考えられるわけです。

それ以外にも、どういう痛みがいつからいつ頃まであったか、事故によるけがで日常生活にどういう支障が出たか、仕事にどういう影響があったか、後遺障害で仕事にどの程度影響が出ているか、どういう理由で精神的苦痛が大きかったか、など当事者でないとわからなかったり、当事者がより詳しく知っていると思われる事項について立証するために陳述書が用いられることもあります。あるいは、事故の後遺障害で介護が必要になった場合に被害者本人の大変さや家族の介護の負担の立証のために家族の方の陳述書を用意する、ということもあります。

陳述書に書く内容は立証目的によって異なってきますので、一様には言えませんが、いずれの場合も、あくまで事実を書くものであり、意見を書くものではないことに注意が必要です。

陳述書が用いられる場面

陳述書は、それで事実を立証することを目的に、いわば単独で提出されることもありますが、一方で、当事者尋問や証人尋問のための準備という意味で提出されることもあります。後者の場合は、陳述書に沿って当事者尋問・証人尋問をするわけです。

では、陳述書自体も証拠になるのになぜ敢えてそれと元に当事者尋問・証人尋問をするのでしょうか。それは、陳述書が比較的弱い証拠であり、一方、当事者や第三者の証言はそれと比べれば比較的強い証拠だからです。もっとも、証言も人証ですので、ドライブレコーダーの画像や防犯カメラの画像のような客観的な証拠ほどではありませんが、陳述書よりは証拠としての力が強いと考えられています。なぜなら、尋問は相手方による反対尋問を経ているからです。反対尋問では、相手方によって証言の矛盾を突いたり、記憶が曖昧ではないか、など証言の確からしさを崩す方向で質問がなされます。また、通常、裁判官からも裁判官が疑問を持った点について補充の質問が行われます。それらを経てもなお揺るがない、合理的な証言であれば、信憑性が高いということになり、証拠としての力は強くなります。陳述書の場合は、このような過程を経ていないため、証言と比べると証明力は弱いと考えられています。

ただ、だからといって、例えば事故の目撃者が数人いるときに全員を証人尋問すれば時間がかかりすぎるし、同じ車に複数で乗っていて全員が事故の瞬間について話したいことがあるという場合に全員に尋問をするのも、やはり、訴訟の効率を考えると難しいでしょう。そのような場合に、1名だけを尋問して、残りの方からは陳述書を出してもらう、というような方法も考えられます。あるいは、目撃者が協力はするけど出廷まではしたくない、という場合も、陳述書の提出だけにする、ということも考えられます。陳述書は、当事者尋問・証人尋問、と比べると、比較的負担を少なく用意できる点はメリットですが、ただ、証拠としての力は、さほど強くはないと考えておくべきでしょう。

もっとも、上記のように、当事者尋問・証人尋問の準備として出すこともあり、その場合は、主尋問で何を聞く予定かということについて自分の依頼している弁護士と打ち合わせをしておくことはもちろん、反対尋問で何を聞かれるかも想定して、よく内容を練る必要があります。

「陳述書」について迷ったら

陳述書について迷ったら、当事者の方の場合、依頼している弁護士に相談しましょう。もちろん、自身の経験した事実を裁判官に伝えるためのものであり、事実を正確にかくべきであることはいうまでもありません。しかし、どういうことに触れるべきか、記憶やや曖昧な場合は書かない方が良いのか、その時の自分の感情についても述べるべきか、など書いていると迷うことも多いと思います。それゆえ、弁護士に依頼して訴訟を行なっている場合は、依頼している弁護士に相談することをお勧めします。

第三者の立場で陳述書の作成を頼まれている場合も、原告・被告いずれかの側から頼まれているはずなので、頼んできた側の代理人弁護士に書き方については聞いてみると良いと思います。

このように、訴訟の進行の中でどうしてよいか迷ったときに専門家である弁護士に相談できるということも、交通事故訴訟に関して弁護士に依頼するメリットの一つだと言えるでしょう。

【コラム】加害者の態度が悪かったことによる慰謝料の増額

2021-08-25

慰謝料の標準的な決定方法

交通事故の慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料があります。入通院慰謝料は入院・通院の期間に応じて計算がなされ、後遺障害慰謝料は1級から14級の後遺障害等級認定に基づいて決まるのが原則です。その計算方法はいわゆる「赤い本」に記載されており、実務においては概ねこれに沿った計算が採用されています。
このように計算方法を示すことで、客観的な事実関係に基づいて公平な算出ができるように工夫がされているということができます。

加害者の事故後の態度を理由とした増額は可能か?

では、加害者の事故後の態度が悪かったことを理由に増額を求めることはできないでしょうか? すなわち、事故被害者から見れば、加害者が不誠実な態度をとった場合には、それだけ精神的苦痛が増すのだから、慰謝料を増額されるべきであるとの思いがあっても不思議ではありません。また、慰謝料は被害者の精神的苦痛に対して加害者が支払わなくてはならないものですから、被害者の精神的苦痛の程度を考えて増額するということは筋が通ったことにも思えます。もちろん、公平な計算ができるように客観的な事情から慰謝料の額を計算できる一般的な計算方法を示したところに「赤い本」の表の意義はあるのですが、しかし、個々の事情を一切考慮しないこともまた公平ではなく、被害者救済に反することになってしまうでしょう。
そこで、裁判例も、加害者の被害者に対する態度や、取り調べに対する対応、刑事裁判での態度、などによって慰謝料を通常より多く認めているケースがあります。

慰謝料の増額が認められた代表的な事例の特徴

慰謝料の増額が認められた事例で、その理由として挙げられた事故後の事由として、

  • ひき逃げ(救護義務・報告義務違反)
  • 自分の責任を否定して損害賠償を拒んでいたこと
  • 刑事裁判で虚偽の供述をしたこと
  • 車の修理などによる隠蔽工作
  • 警察の取り調べに対する対応(例えば、警察官に別人が運転していたと述べたこと、事実と異なる加害者に有利な調書が作成されていることに気が付きながら訂正を求めなかったこと、など)

などがあります。(「赤い本」2021年版237頁~244頁参照)
なお、これらの事案では、事故の態様(飲酒運転やよそ見運転など)も併せて考慮された結果、慰謝料が増額されている事案も多いです。

納得がいかない場合は弁護士に相談を

加害者の不誠実な態度として被害者にとって納得がいかない事情は上記に限られるものではありません。加害者の様々な不誠実な行動が被害者を苦しめているのは事実であり、それらによる苦痛が、交通事故における通常の損害賠償で填補しきれない程度に達している場合は、「赤い本」の表による算定を超えて慰謝料が認められるべきであるということは、充分理のある事だと思います。
加害者の態度を理由とした慰謝料の増額は、任意保険会社との交渉で認められる場合もあり、必ずしも訴訟をしないと認められないわけではありません。もちろん、増額が認められる場合もあれば、「赤い本」の表を上回ることは難しい場合もありますが、いずれの場合でも、弁護士はそれぞれの事案に応じた適切な賠償を得られるよう、交渉に尽力いたします。
交通事故の被害に遭い、加害者の態度に納得がいかないという場合は、まずは、弁護士にご相談ください。

【コラム】任意保険に入るべき理由

2021-08-24

任意保険と自賠責の違い

自賠責は政府が加入を義務付けており、入らずに自動車を運行することは違法になってしまいます。つまり、加入は強制です。これに対して、任意保険は加入するかどうかは各運転者に任されています。
また、自賠責で補償されるのは人身損害だけですが、任意保険は人身、物損、いずれも補償範囲となります。
さらに、自賠責は補償の上限があり(障害120万円 後遺障害は原則3000万円で常時介護の場合のみ4000万円)、各項目の額も比較的低い額が定められていますが、任意保険は人損について上限がない保険が多く物損もかなりの額をカバーするものが多いです。さらに、実際に生じた損害を補償するのが原則です。

自賠責のみに加入していて事故を起こしてしまった場合

自賠責に加入していれば、任意保険に加入せずに車を運転しても、そのこと自体は違法ではありません。しかし、任意保険に加入していない状態で事故を起こしてしまうと、以下のような問題が生じ得ます。

  • 自賠責の上限を超える額については自己負担になってしまう。(例えば、(後遺障害ではない)障害なら120万円を超える部分)
  • 自賠責の基準を超える部分は自己負担になってしまう(例えば、後遺障害等級12級の後遺障害慰謝料は自賠責だと94万円ですが、「赤い本」基準だと290万円)
  • 物損については自賠責は補償しないので、自己負担になってしまう

ここで、自己負担というのは、被害者に支払うべき損害賠償を加害者が自ら負担しないといけない(保険を使うという形で対応できない)ことを指しています。そうすると、比較的損害が小さければ自己負担をしてもそれほどの額にはならないでしょうが、もし、被害者の方が後遺障害、それも重い後遺障害を負ってしまうと、加害者はその損害賠償を自らの負担でしないといけなくなり、支払い切れない恐れもあります。
そして、そのことは被害者が困るというだけではなく、事故の刑事責任を追及される場合に損害が補償されていないということで重い処分につながる恐れもあります。
したがって、被害者のためにも、加害者自身のためにも、任意保険には入っておくべきだと思います。もちろん、事故を起こさないのが一番ですが、注意していても起きてしまうことはあるので、任意保険には入っておくべきだと思います。

任意保険と弁護士特約

たいていの任意保険には弁護士特約を付けるというオプションが存在します。弁護士特約に加入しておくと事故に遭ったときに弁護士費用を出してもらうことができます。自分だけではなく家族も使えるようなプランもあります。弁護士特約の内容は保険会社により、また、プランにより、異なりますので、詳しいことは保険会社にお問い合わせください。弁護士特約に入っておけば、事故に遭ったとき、過失割合や慰謝料の額、休業損害、などで納得がいかないことがあったときや、後遺障害の等級認定の申請に関して専門家に依頼したい、という場合に、弁護士費用を気にせずにご依頼ができますので、ぜひ、弁護士特約についても加入をご検討頂ければ、と思います。

【コラム】訴訟をすれば必ず金額が増えるのか?

2021-08-17

保険会社との任意交渉で「赤い本」の表通りの提案が来るとは限らない

交通事故の被害について、本人が相手方保険会社と交渉すると、当初は自賠責と同じレベルの慰謝料を提案してくるなど、かなり低い額での提案が来ることも多いです。そこで弁護士が入ると、慰謝料について、「赤い本」の満額で提案が来ることもありますが、8割か9割しか応じられないという回答が来る場合もあります。そういう場合、訴訟にすれば、確実に金額が増えるのでしょうか?

そもそも「赤い本」とは?

いわゆる「赤い本」は、正式には『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(日弁連交通事故センター東京支部編)です。発行しているのは日弁連交通事故センターであり、公的機関によるものではありません。もちろん、法的拘束力があるわけでもありません。しかし、判例を分析して作成されたものであり、裁判所でも基本的には、この本の記載されている基準に従って判断されることが多いです。
そこで、「赤い本」の基準のことを裁判所基準ということもあります。

訴訟にすると

では、裁判所基準というくらいなので、訴訟にすれば、必ず、この基準に従った金額になるでしょうか? 実は、そうとも限りません。なぜなら、以下のような争点が顕在化することがあるからです。

① 事故と治療の因果関係

治療を受けたことやそのために費用が発生したことは診断書や診療報酬明細書から認められるとしても、その治療が交通事故の結果必要になったものかというところで争われることがあります。被害者の心情としては、事故に遭わなければ病院に行くわけがない、と一蹴したいところだと思います。しかし、事故の後すぐに病院に行かずに少し間が空いている、途中から異なる部位を治療している、本件事故の結果生じるとは考えにくい症状についても治療している、以前から同様の症状があってそれを治療している、事故が軽い衝突であり負傷が生じることが考えにくい、などの理由で、本件での治療は事故と因果関係がないと反論されることがあり、治療したのが事故から生じた症状であることを合理的に説明できないと、治療の必要性が認められないことになりかねません。そうすると、治療費はもちろん、通院慰謝料も認められないことになってしまいます。

 もっとも、事故と負傷の因果関係が完全に否定されるケースはあまり多くはありませんが、衝突が非常に軽いものであった場合等にはないわけではないです。

② 治療期間の適切性

上記①とも関連しますが、仮に事故から一定期間の治療については事故との因果関係が認められたとしても、ある時期以降の治療は必要なかった、あるいは、事故との因果関係がない症状についての治療である、とされると、その時期以後の治療費は認められず、入通院慰謝料の対象となる期間もその時期までとなってしまいます。

 実際のところ、完全に因果関係が否定されるのは軽い事故の場合を除くと稀で、事故と負傷の因果関係自体は認めつつ、治療期間が争点になることの方が多いです。特に、事故の治療が長期に及んでいて、途中の時期からは症状にあまり改善が見られない場合に主張されることが多いです。

③ 休業の必要性及び期間の適切性

治療の必要性や期間の適切性とは別に、休業損害の必要性と期間の適切性の問題が生じ得ます。すなわち、負傷したからといって仕事ができなくなるとは限らず、また、事故当初は休まざるを得なかったとしても、実際に休んだほどの長期間休む必要はなかったということで一定の時期以後の休業について必要性を争われる場合があります。

④ 後遺障害による逸失利益について

後遺障害が認定されると、その等級に基づいて決められた労働能力喪失率と従来の収入、それに労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数をかけあわせて逸失利益を計算できます。
しかし、現実に収入の低下がないから逸失利益はない、あるいは実質的には労働能力の喪失はない、というような反論が出てくることがあります。醜状障害の場合にはよく主張されますが、それ以外の場合でもありうる主張です。

 また、特にむち打ちなど比較的軽い負傷による後遺障害だと逸失利益の期間について争われることも多いです。

⑤ 過失割合

過失割合についても、争いが生じ得ます。追突やセンターラインオーバーの場合のように原則10:0という場合もありますが、多くの場合、例えば、車線変更に伴う同一方向進行の四輪自動車どうしの場合は原則7:3、路外から入ってくる車と直進車の場合は原則8:2、などという形で双方に過失があるのが原則となっています。
そ れを必要に応じて具体的な事実に基づいて修正して、過失割合を確定させるのですが、双方の見解が食い違うと、最終的には裁判所が判断することになります。したがって、必ずしも被害者の考えていた割合が認められるとは限らないということになります。

⑥ その他

物損に関してまだ示談していない場合は、修理費や評価損、全損の場合の買い替え諸費用、などについて争われる可能性があります。また、上記以外にも、付き添い費、入院雑費、通院交通費(タクシー利用時は特に)、など様々な項目について争われる可能性が出てきます。

 上記のように、訴訟では様々な項目について争われる恐れがあります。上記は代表的なものを列記しましたが、他にも争点が出てくる可能性はあります。提訴前に保険会社側からそのような主張が出ていなかったとしても、訴訟に移行することで相手方も改めて事故に関する資料を精査して新たな争点を組み立てて主張してくるということがあり得ます。そして、もし、保険会社側の主張が通ってしまうと、交渉の際の提案より低い金額になってしまうこともあり得ます。
 もちろん、あくまで可能性あり、逆にすべての争点で原告(被害者)勝利となり、金額が大幅に増える場合もあります。判決の場合は、入金までの利息日まで民事法定利率による利息が付くこととなっており、また、弁護士費用として認容額の1割を別途認められるのが一般的なので、その分も考えれば、訴訟でうまくいけば金額が増えるのは事実です。

 このように、争点がある場合は、原告代理人として一つ一つの争点について具体的事実を挙げつつ丁寧に立証していくことで主張の正当性を裁判官に認めてもらうことが重要になってきます。

訴訟をするかどうか判断が付かないときどうするか?

保険会社に言われた額で示談するか、訴訟をするか、判断が付かないときは、どうすればよいでしょうか? これについては、弁護士に依頼していれば、弁護士が記録を精査し、訴訟をした場合のメリットとリスクについて検討、その上でご依頼者様に説明します。その上で、訴訟をするかどうか、をご判断いただければ、と思います。もし、よくわからないからまかせる、ということであれば、弁護士に判断を任せて方向性を決めてもらい、進めていくということになると思います。
 当事務所でも、多くの交通事故訴訟を扱ってきたので、経験を踏まえて検討、判断を行いご依頼者様に説明することができます。もちろん、訴訟をすることとなった時は代理人として対応することができます。交通事故の被害者の方で訴訟を考えておられる方は、まずはご相談ください。

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