【コラム】自動車と道路を横断する歩行者の事故の過失割合

自動車と横断歩行者の事故

ここでは、横断歩道や交差点以外の場所で、道路を横切ろうとしていた歩行者と道路を走ってきた四輪自動車が衝突した場合の過失割合について検討します。交差点付近や横断歩道付近でもなく、一本道を横切るような場合を想定しています。

基本的な過失割合

この場合、基本的な過失割合は、自動車8:歩行者2、です。(判例タイムズ38巻図【37】) 
一般に、自動車と歩行者の事故だと車の責任が重くなるという印象があると思いますが、たしかに、この場合、車の方の責任が重いのが原則です。自動車を運転する時には、歩行者が道路を横切ることも想定して注意しながら運転することが求められていると言えます。
もっとも、歩行者にも2割の過失が設定されており、歩行者にも道路を横切るときには自動車が来ないか注意することが求められているということができます。
ただし、以下のように、過失割合が修正がされる場合があります。

修正要素

修正要素としては、歩行者側の過失割合を増やす方向のものとして、

  • 夜間 5
  • 幹線道路 10
  • 横断禁止の規則あり 5~10
  • 直前直後横断・佇立・後退 10

があります。
タイズム38巻第1章の解説によると、夜間は日没から日の出までを指すとしたうえで、一般道路ではトンネルの中や濃霧で視界が50m以下の場合は同様に解してよいとされています。
また、幹線道路については、歩車道の区別があること、車道幅員が概ね14m以上(片側2車線以上)、車両が高速で走行すること、が要素として挙げられ、通行量の多い国道や都道府県道を想定している、としています。
横断禁止の規則あり、については、横断が禁止されているのみならず、歩車道の区別や標識、ガードレール、フェンス等の設置、などにより横断禁止であることが容易に認識できることも前提とされている、とされています。
直前直後横断については、道路交通法13条1項で禁止されているということが上記解説では理由として挙げられており、斜め横断も12条2項で禁止されているので同様に歩行者側に不利に働く、と指摘されています。

これらを検討すると、まず、夜間は車から歩行者が見えにくいので、より歩行者が注意をする必要性が高いでしょう。また、幹線道路についても、幅が太く車が多い道は自動車の走行の利便を重視して造られており、敢えて横断する場合、歩行者はより注意を払うことが求められていると考えられます。
また、横断禁止の場所の横断や直前直後の横断等は、道交法違反である以上、本来行うべきではないことを敢えて行なったということで、過失が重くなるということだと思われます。横断中にその場で佇んだり、敢えて後退するようなことも危険を増すので、加算要素になっていると考えられます。

このように、歩行者の過失は、基本は2割ではあるものの、夜間、幹線道路、道交法違反などを伴う横断の場合には過失が加算されること、がわかります。また、それぞれの加算要素は複数ある場合、足し合わせることに注意が必要です。例えば、夜間に幹線道路を横断禁止を無視して車の直前を横断しようとして事故に遭ったとすると、30~35の修正となり、歩行者側の過失減算要素がなければ、歩行者側の過失が50~55%になってしまいます。
もちろん、実情に応じて修正されうるので、必ずこの図の通りに修正されるとは限らないのですが、場合によっては、概ね5:5ないしより歩行者に不利なところまで修正されうることは念頭に置いておくと良いと思います。

一方、歩行者側の過失を減らす修正要素としては、

  • 住宅街・商店街等 -5
  • 児童・高齢者 -5
  • 幼児・身体障害者等 -10
  • 集団横断 -10
  • 車の著しい過失 -10
  • 車の重過失 -20
  • 歩車道の区別なし -5

となっています。

上記の用語に付いて、タイムズの解説は、まず住宅街・商店街等、は人の横断・通行が激しいか、または頻繁に予測される場所を想定していて、人通りの絶えた深夜の住宅街・商店街等や、郊外の住宅・商店が間隔を空けて存在する場所は含まない旨を述べています。つまり、人の横断・通行が激しい場所や頻繁に予測される場所では、自動車の運転者は横断者が現れることをより容易に予測できるはずなので、より注意すべきである、ということで、歩行者側の過失割合の減算要素(車から見れば加算要素)とされているのだと解されます。
集団横断については集団登下校を例として挙げており、数人が外形的にみて同様の行動をしていれば足りる、としています。これについては、みんなで渡るなら十分注意しなくても良い、というわけではなく、自動車側から見て気づきやすいはずなので、それにもかかわらず衝突に至った場合は自動車側の過失が重くなるということだと考えられます。
児童・幼児、については、道交法14条3項に定義があり、児童は6歳以上13歳未満の者、幼児は6歳未満の者、とされています。高齢者については、道交法に明確な規定はありませんが、タイムズの解説では、概ね65歳以上とされています。これらの者については、判断能力や行動能力が低いので特に保護する必要が高いがゆえに、その能力に応じて2個のカテゴリーに分けて過失を減算することにした旨、解説は述べています。幼児のほうが児童より年齢が低いので、より強く保護する趣旨で、減算が大きくなっています。なお、直接当てはまらなくても社会的要請によっては同様に減算要素となりうる場合があるとされています。
また、歩車道の区別のある道路かどうか、については、おおむね1m以上の幅の路側帯の有無で判断されます。
また、車の側の著しい過失は時速15km以上30km未満の速度違反、脇見運転、携帯で話しながら運転したり画面を見ながらの運転、などが例示されています。
また、重過失は、さらに過失が重い場合であり、酒酔い運転、居眠り運転、時速30km以上の速度違反、などが挙げられています。

上記をまとめると、現場の状況や道路構造に関する要素、歩行者の属性に関する要素、横断方法に関する要素、車の運転方法に関する要素、があり、それぞれ歩行者の過失を減らす要素となっています。

上記を前提に考えると、例えば、児童が集団登校中に道路を横断していて事故に遭った場合、他の修正要素がなければ、車95歩行者5の過失割合になる、ということになります。もし、その場合で、歩車道の区別がなければ、10:0で車の過失ということになります。
もっとも、歩行者側に加算要素があれば異なってきます。例えば、上記の例で集団登校州の児童が道路を渡りながらふざけていったん渡りかけた道路を後戻りしたりすると、歩行者側の過失が10増えるため、車90歩行者10になると考えられます。直前直後横断も同様です。
こう考えると、集団登校の児童を見つけた自動車の運転者には高度な注意が求められている一方、児童も道を渡るときは交通法規を守り、敢えて危険なことはしないようにすることが求められていると言えるでしょう。

まとめ

以上のように、道路横断の際の事故は、基本的には、自動車の過失が8割、歩行者の過失が2割、とされますが、様々な要素により修正されます。実際の交渉では、過失や重過失の根拠となる事実の有無の他、事故の現場が歩車道の区別がある場合や、幹線道路、商店街・住宅街等、に当たるか、あるいは、横断の態様が集団横断と言えるかどうか等、事実の評価を巡って争われる場合もあります。弁護士は、依頼者からの聞き取り、実況見分調書、ドライブレコーダーや防犯カメラ、現場の確認、その他、事案に応じて様々な手段で事実関係を把握し、証拠を集めるとともに、法律や判例(および、それを元に作られた「赤い本」や「判例タイムズ38」など)に当てはめて解釈し、相手方との交渉や訴訟に当たります。過失割合については、事実関係の調査、その当てはめ、いずれにおいても複雑な作業が必要なので、専門家の力を借りる必要性が高いと思います。
また、歩行中に車に衝突された事故の場合、たいていの場合は自分の側は賠償責任を負わないため、そうすると、自動車同士の出会いがしらの事故のように自分の任意保険の示談代行を使うというわけにもいきません。それゆえ、弁護士に相談、依頼する必要性は高いと思います。
交通事故の過失割合を巡る問題は、当事務所でも多く扱ってきました。もちろん、道路横断時の過失割合が関係する事案も扱ったことがあります。道路横断時の事故の過失割合について、加害者やその保険会社の対応に納得がいかない場合は、まずは弁護士にご相談ください。

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