【コラム】被害者の過失・・相手方への支払い義務が生じうることに気を付けよう

過失割合とは?

過失割合は、ある事故について、どちらの当事者にどれだけの比率で過失があるか、という割合のことです。例えば、信号待ちで止まっている車に後続車が追突すれば、原則として10:0で後続車に過失が認められます。あるいは、直進している車と隣の車線からの進路変更の車が衝突した場合は、原則は進路変更車が7,直進車が3,の過失として、7:3の過失割合となります(ただし、速度違反、脇見運転、酒気帯び、などの事情により変動します)。
このように、個々の事故について、各当事者の責任の割合を決める必要があります。

過失割合は誰が決めるか?

過失割合は、交渉であれば、両当事者の合意で決めれば良く、裁判の場合は、判決まで進める場合は裁判所が判断します。裁判でも途中で和解をする場合は、当事者間での合意に従って、ということになります。

被害者の過失と相手方への賠償

被害者にも過失がある、となると、もらえる損害賠償の額が減ってしまう、ということがまず思い浮かぶと思います。例えば、後遺障害等級14級の慰謝料は「赤い本」だと110万円だけども、被害者にも1割過失があれば、1割減って99万円になってしまう、通院6か月の通院慰謝料は「赤い本」表2(軽度のむち打ちなどの場合用の表)だと89万円だけども過失1割だと約80万円に減ってしまう、というようなイメージを持つ方も多いと思います。
それは間違ってはいません。もっとも、損害賠償は慰謝料だけではなく、治療費、休業損害、逸失利益、交通費、文書代、など案件によりますが様々な項目があるので、それを合計した額を損害額として、そこから被害者側の過失分を差し引くという方法を採るので、すでに満額でもらっている項目がありそれが多額だと、これから請求できる分が思ったよりも少ないこともありますので、注意が必要です。
ただ、ここで気を付けたいのは、単に請求額が減るだけではないということです。すなわち、被害者側にも過失があるということは、相手方に損害があれば、その損害を過失割合に応じて補償しないといけないということです。もし、被害者が歩行者で、加害者が四輪自動車の場合、自動車に乗車中の人に負傷が生じるケースは少ないですし、自動車が損傷することも少ないと思います。そうすると、仮に歩行者側にも過失があったとしても、その請求できる損害賠償の金額が減るだけで済むことがほとんどでしょう。
しかし、四輪車どうしの事故や、バイクどうしの事故、あるいは、四輪車とバイクの事故、では双方に乗車している人の負傷や車の損傷が生じることが珍しくありません。そうすると、被害者といえども、過失があれば、相手方に生じた損害を賠償する義務を負ってしまうのです。
例えば、四輪自動車同士の事故を考えてみましょう。A車が駐車場から本線に進入してきたときに本線を走行していたB車と衝突して起きた事故で、過失割合はAが8,Bが2,だとします。すなわち、過失割合は本線を走行していた車が2,進入しようとしていた車が8,ですが、ここでは、進入しようとしていたA車は横から衝突されたために人・車ともより大きなダメージを受けたと仮定します。
ここで、Aは負傷し、治療費や慰謝料など300万円の損害を受けたとします。A車も損傷し、修理代など物損は50万円とします。そうすると、A側の損害は合計350万円なります。一方、Bは負傷しましたが後遺障害はなく治療期間も短かったため損害は治療費や慰謝料など合計しても70万円、B車の物損は修理代として20万円、合計90万円の損害だとします。
そうすると、基本的にBが被害者といえるでしょう。そこで、BはAに対して、損害90万円のうち8割の72万円を請求できることになります。では、Aからみるとどうでしょうか? 損害350万円のうちBの過失に相当する2割、すなわち、70万円分をBに請求できることになります。
そうすると、もともとの過失はAのほうが大きいのに、互いに請求できる額はほとんど同じになってしまいます。
これは少し極端な例ですが、被害者だと思っていても、相手方の損害が大きいと、それなりに賠償しないといけないことがあります。もっとも、自分の責任分には自分の保険を使えれば実際に支出するわけではなく、人身損害については一定範囲で自賠責保険も使えますが、自分の任意保険で支払ってもらう場合には保険料が上がるなどのデメリットもあり、示談交渉をするときには、被害者側であっても、相手方の損害の有無と過失割合には留意する必要があります。また、改正民法では、人身損害について相殺できないのは従前と同じですが(509条2項)物損分については相殺することも可能なので、その点にも注意が必要です。
なお、これに関連して、9:0という不思議な過失割合で示談するケースがあります。これは、被害者側にも1割の過失があるとも思われる場合に、被害者は自身の損害賠償請求額が本来より1割減ることは受け入れる代わりに、相手方の損害への賠償はしない、という形で示談をすることを言います。早期解決のための工夫であって、訴訟の判決でこのような解決になることは考えにくいところですが、示談交渉では行われることがあります。

まとめ

被害者側にも過失がある場合、相手方にも損害があれば、原則として過失割合に応じた損害賠償義務があることになります。そこで、示談交渉をする際には、そのことも念頭に交渉を進めていく必要があります。
過失割合については、「判例タイムズ38巻」や「赤い本」に基準が出ており、おおよその計算方法は示されていますが、事実認定やその解釈を巡り、争いになりやすい部分でもあります。もし、相手方本人や相手方保険会社から示された過失割合に納得がいかない場合は、まずは弁護士にご相談ください。

交通事故のご相談は、経験豊富な弁護士へ!

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

HOME Mail Tel