後遺障害の損害賠償額に相場というものがあるのでしょうか? 実のところ、「赤い本」には認定された後遺障害の等級に従って、後遺障害慰謝料と逸失利益の基準が定められています。
*後遺障害の補償は原則として後遺障害慰謝料と逸失利益が認められます。重い後遺障害の場合のみ介護費用が追加されます。
後遺障害慰謝料は等級に応じて基準となる額が示されており、逸失利益については等級により労働能力喪失率が定められていてそれに基礎収入とライプニッツ係数をかけ合わせるので年齢やもともとの収入によっても異なります。もっとも、これらは法的拘束力があるものではありませんが、過去の裁判例を検討して作成された本であるため、交渉や訴訟において、慰謝料や逸失利益はこの本の基準に従って計算がされることが多いです。それゆえ、上記の「赤い本の基準」が「相場」を形成しているといってよいでしょう。
なお、上記のように後遺障害の等級により慰謝料と逸失利益の額が決まってくるため、原則として、まず後遺障害の等級認定を受けることが必要です。後遺障害の認定のためには、自賠責を通して、損害料率算出機構という機関に申請をする方法があります。これを被害者請求といいます。診断書を用意し、必要書類を揃える等、一定の手間がかかる他、費用や時間がかかる可能性もありますが、弁護士が代理人として行うことができます。もちろん、当事務所でも扱っています。もっとも、加害者側に保険会社が付いている場合は保険会社に任せる方法もありますが、その場合でも医師に後遺障害診断書を書いてもらう必要はあります。
そこで、「仮に賠償額があまり変わらないなら、後遺症の申請をしなくてもよいのでは?」とお考えになる方もいらっしゃると思います。しかし、実のところ、後遺障害の認定を得られるかどうかで支払われる保険金の額は大きく変わってきます。なぜなら、下記の通り、後遺障害が認定されると、原則として、通常の入通院慰謝料や休業損害の請求に加えて、後遺障害慰謝料と逸失利益の請求が可能となるからです。
以下には、後遺障害が認定された場合、どのような賠償が得られるかを紹介したいと思います。
このページの目次
〈後遺障害に認定が得られるとどんな補償が請求できる?〉
・後遺障害慰謝料
傷害慰謝料が、事故により怪我を負い、一定期間入通院をしなければならなくなったことにより被る精神的苦痛に対する賠償であるのに対し、後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ってしまったことによる精神的苦痛に対する賠償です。
各等級に応じて、自賠責で定められた支払限度額及び後遺障害慰謝料の基準及び赤い本の後遺障害慰謝料の基準(「裁判基準」とも言われます)は、以下の通りです。
自賠責の基準
等級 |
1級 |
2級 |
3級 |
4級 |
5級 |
6級 |
7級 |
限度額 |
3000万円 |
2590万円 |
2219万円 |
1889万円 |
1574万円 |
1296万円 |
1051万円 |
慰謝料 |
1100万円 |
958万円 |
829万円 |
712万円 |
599万円 |
498万円 |
409万円 |
等級 |
8級 |
9級 |
10級 |
11級 |
12級 |
13級 |
14級 |
限度額 |
819万円 |
616万円 |
461万円 |
331万円 |
224万円 |
139万円 |
75万円 |
慰謝料 |
324万円 |
245万円 |
187万円 |
135万円 |
93万円 |
57万円 |
32万円 |
- 慰謝料は限度額の範囲内で認められます。
赤い本基準(裁判基準)
等級 |
1級 |
2級 |
3級 |
4級 |
5級 |
6級 |
7級 |
限度額 |
2800万円 |
2370万円 |
1990万円 |
1670万円 |
1400万円 |
1180万円 |
1000万円 |
等級 |
8級 |
9級 |
10級 |
11級 |
12級 |
13級 |
14級 |
限度額 |
830万円 |
690万円 |
550万円 |
420万円 |
290万円 |
180万円 |
110万円 |
慰謝料は他の費目との調整に使われやすく、また、赤い本基準は裁判を行なった場合の金額の目安ですので、交渉の段階で必ず満額をもらえるという訳ではありませんが、当事務所では、ご依頼者様のお話を丁寧に聞き取り、なるべく赤い本基準に近づけるように交渉しています。実際、(過失相殺がない場合)、「赤い本」基準の9割~10割で示談できることが多いです。
・後遺障害による逸失利益
後遺症は、基本的に今後も残存すると考えられる症状ということになりますが、後遺障害等級表に「労働能力喪失率」と記載があるように、今後も残ってしまう症状により、将来の労働能力が制限されると考えられています。そこで、後遺症が認定された場合は、交通事故にあわなければ本来得られたであろう利益のことを、逸失利益といいます。
後遺症が認定された場合には、この逸失利益を請求することができます。
計算方法は、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数(中間利息の控除)」を用いるのが一般的です。
*なお、ライプニッツ係数は令和2年4月の民法改正の前後では数値が異なるので注意が必要です。
一見すると簡単に計算できそうにも思えますが、実際には争点となることもあります。まず、基礎収入は、職業や年齢によっては前年度のものをそのまま認めることを保険会社が渋るケースもあり問題となりえます。特に自営業の場合に問題になりえます。また、労働能力喪失率は基本的に等級ごとの相場があるものの、症状によってはこれと異なる数字が採用されることもあります。また、収入の低下の可能性が低いことを理由に逸失利益の減額やゼロを主張されることすらあります。特に、後遺障害の部位や内容によっては争われやすい傾向があります。労働能力喪失期間についても原則は67歳までですが、むち打ちの場合等にはより短い期間を主張されるのが一般的です(また、67歳を超えている場合も零とするのではなく、平均余命の2分の1を労働能力喪失期間として計算するのが一般的です)。
そのため、逸失利益の問題は複雑な争点を多数はらんでいることになります。もちろん、弁護士にご依頼頂ければ、最大限ご依頼者様の利益になるように交渉や、場合により訴訟活動を行います。
・文書料(後遺障害診断書取得に要した費用)
後遺障害診断書取得のために文書料がかかるのが通常ですが、後遺症が認定された場合には、相手に請求することができます(非該当の場合は自己負担となってしまう可能性があります。)。
〈後遺症でお悩みの場合は弁護士にご相談を〉
上記のように後遺障害の等級がつくのとつかないのとでは、大きく賠償額が異なってくることになります。
なるべく早期にご相談いただければ、通院段階から、後遺症認定に向けたご助言をすることができ、後遺障害の等級認定の申請(自賠責を通して申請を行う方法、すなわち被害者請求)も代理人として行うことができます。もちろん、症状固定後のご相談でも問題ありません。さらに、異議申立てからのご依頼もお受けしています。当事務所では後遺障害の等級認定の獲得へ向けた活動に力を入れています。
後遺障害慰謝料も逸失利益も専門的な要素が大きく、ご自分での交渉がなかなか難しい部分があります。ぜひ、多摩中央法律事務所にご相談下さい。