交通事故には、「被害者」と「加害者」がいます。当然のことながら、加害者が事故を起こした側、責任を負う側でありますが、その責任割合は、必ず10対0というわけではなく、被害者側にも過失があるとして「過失相殺」が問題になることがあります。
ここでは、過失相殺と過失割合に納得が行かない場合の対処法についてご紹介します。
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〈そもそも、過失相殺とは何なのか〉
過失相殺とは、民法上の制度であり、民法722条は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」としていることに由来します。民法の条文では「裁判所は」という書き方になっていますが、任意の交渉でも考慮されます。衡平の観点から設けられた仕組みであると考えられます。
交通事故の損害賠償は、過失による損害に対する民事上の損害賠償請求なので、上記の民法上の制度が適用されるわけです。交通事故の場合には、事故の原因等において、被害者側にも過失があると認められた場合、その割合に応じて、賠償金額が減額になることをいいます。
例えばですが、仮に、被害者に2割の過失があるということになった場合、被害者に生じた損害額が1000万円とされた場合、賠償金額は800万円となります。ここで、過失相殺の対象には治療費も含まれるので、単純に示談時に新たに支払われる慰謝料等のみに過失割合をかけるわけではない点に注意が必要です。
ただし、自賠責の場合は、7割未満の過失は考慮されませんので、被害者の方の過失が7割未満であれば、通常通り支払を受けることができます。自賠責は当事者間の衡平より被害者の救済を優先した制度設計になっているということだと考えられます。しかし、自賠責では十分な額の補償がされないのが通常ですので、結局、任意保険等に請求することとなり過失割合が重要になってきます。
交通事故の場合、過失の割合がどれくらいになるのかについては、過去の裁判例をもとに作成された過失相殺率の認定基準が参考にされます。これは、「赤い本」と呼ばれる本に、事故の類型ごとに過失割合が記載されていて、それを、速度違反や、前方不注意、酒気帯び、等の要素を加味して修正していくという形になります。赤い本以外にも、別冊判例タイムズ38にも同様の図があり、これもよく用いられます。
事故の類型の図は、四輪車どうしの事故、四輪車と歩行者の事故、四輪車とオートバイの事故、四輪車と自転車の事故、などの大きな類型にまず分けられ、その中で、信号機のある交差点での事故、片方が道幅が広い交差点での事故、片方に一時停止の標識がある交差点での事故、追い越しの際の事故、駐車場への出入りの際の事故、など様々なケースについて基本的な過失割合が定められています。
パターンは数百パターンあり、たいていは当てはまるものが見つかるので、どの図が適用されるか、を判断したうえで、各当事者についての修正要素を加味していくことになります。
一般道で信号などで停車中の車輌に追突したというような事例では、一般道で4輪車どうしであれば、被害者の過失がゼロとされることがほとんどですが(ただし、停止していた場所等により例外あり)、信号のない交差点での衝突、駐車場の出入りの際の事故、車線変更時の事故、等は過失割合が問題になることが多いです。
〈相手にも被害がある場合の問題〉
車対歩行者の事故の場合は、多くの場合車には損傷はなく歩行者の負傷に対する補償が問題になるので、被害者にも過失があったとしても、被害者が請求できる金額が減るということに留まります。ところが車同士の事故でよくあるように双方に損害が生じた場合、被害者側にも過失があると、加害者側の車の修理代や、加害者が負傷をしていればそれに対する慰謝料などの補償も問題になります。
その場合は、一般的には合意をして双方の請求権を相殺し、残りを損害が大きいほうが受け取ることになります(それぞれの保険会社が相手方への補償額を支払う場合もあります。これをクロス払いと呼ぶことがあります)。それゆえ、双方に人身ないし物損の障害が生じた事故では、過失割合の認定は双方の権利義務が絡んで、支払い内容に大きな影響を与える場合があるので、注意が必要です。
〈実際の交渉の対応〉
保険会社も、上記認定基準を参考にして被害者の過失を主張してくることも多いですが、保険会社側の主張は、やはり、実態以上に被害者に不利な主張をしてくる場合も多いように思います。
例えば、加害者の過失割合を加算する要素がある場合でも、それが保険会社側の主張には反映されていない場合もあります。保険会社としては、やはり自社側に有利な解決を望んでいると考えられるため、加害者に不利な事情や被害者に有利な事情については、考慮しない傾向にあるのかもしれません。
そのような場合は、弁護士が記録をよく読んで調べれば、判明し、証拠として用いることができる可能性があります。
つまり、赤い本や判例タイムズに記載された類型にあてはめるだけで自動的に算出されるとは限らず、そこから、速度違反や前方不注意等の修正要素を主張される(できる)こともありますが、修正要素の多くは、大幅な速度違反、よそ見運転、先に交差点に進入していたか、など、事実認定にかかわるものであるため、証拠が重要になってきます。
それゆえ、案件によっては、実況見分調書等の刑事事件の記録(加害者の刑事記録)の証拠を検討する、あるいは、現場をみる等の検証作業が重要になってきます。ドライブレコーダーや防犯カメラの画像が参考になることもありますが、防犯カメラの画像は保存期間がそれほど長くないので、注意が必要です。
〈裁判による解決〉
特に、事実関係が争われている場合は、当方の主張が正しいことを立証する必要があり、場合によっては裁判所で当事者尋問などを経て判断がなされることになります。
もちろん、裁判をするかどうかは当事者が決めることですが、事実関係について双方が引かない場合は、訴訟による解決が現実的ということにもなりえます。
裁判の場合は、まず、原告が訴状を提出し、被告が答弁書や準備書面を提出、それに対してさらに原告が反論の準備書面と提出するという流れが一般的です。
また、過失割合が争われていると、当事者尋問を行うことが一般的です。ドライブレコーダーがない場合には事故態様についての裁判官の心証形成のためにも尋問が重要な役割を果たします。また、ドライブレコーダーがある場合には事故態様は客観的な証拠である画像のほうが重視されますが、画像ではわからない事実や、当事者がどの程度注意義務を果たしていたかなどの主観的な部分については尋問の重要性は変わりません。
当事者尋問は通常双方の主張が出尽くした後に行われ、尋問後に裁判所から和解勧試がなされることが多いですが、当事者は必ずしもそれに従う必要はなく、和解に応じずに判決を求めることもできます。
判決となった場合、第1審(簡裁ないし地裁)の判決に納得がいかない場合には、判決の送達から2週間以内であれば控訴をすることができます(必着)。控訴をすると、一つ上の裁判所(第1審が簡裁だと地裁、第1審が地裁だと高裁)で審理が行われることになります。
〈弁護士に依頼したほうが良い理由〉
このように、過失割合の判断は簡単なものではなく、一般の方では、自らに不利な主張がなされていることに気が付かないことも多いと思います。そのため、保険会社の提示に対する回答をする前に、専門家である弁護士に意見を聞いていただければと思います。もし、ご自身での交渉が難しいと感じている場合は、ぜひ、ご依頼をご検討ください。
過失割合については、多くの判例が重ねられている分野であり、また、事実認定とともに法的な評価が問題となってきますので、法律の専門家である弁護士が得意とする分野であり、ご依頼者様がご自分で進めるのはなかなか難しい争点だと思われます。
過失相殺の点について不安を感じた場合や、納得がいかない場合は当事務所にご相談ください。