物損のみが発生した場合、車両の修理のみを済ませれば終わりかというと、そんなに単純な話でもありません。まず、その修理費用自体が争いになることもありますし、他の費目が問題になることもあります。また、全損で修理ができない場合もあれば、経済的全損とされて時価の賠償のみ(他、買換え諸費用の一部)の賠償しか受けられない場合もあります。このように、物損についての損害賠償請求も、それなりに複雑です。
以下では、物損事故の場合の損害賠償についてご紹介したいと思います。
このページの目次
〈車両自体に生じた損害〉
〈修理代〉
車両の損害については、加害者側に損害賠償を請求することができますが、相手方の自賠責から払ってもらうことはできず、任意保険か、加害者本人に請求することになります。なぜなら、自賠責は、物損を対象にしていないからです(※それ以外の保険として、ご自身の車両保険が使える場合もあります。)。
被害については修理代の見積もりに基づいて加害者側に請求するのですが、加害者側に保険会社が付いている時は、あらかじめ見積もりの妥当性について協議をしてから修理に入った方が良いでしょう。そうすると、加害者側の保険会社は、通常、アジェスターと呼ばれる査定の専門家の調査を経て、金額の妥当性を判断し、その上で回答してくるので、修理費の妥当性を巡って揉めることを防ぐことができると考えられます。
〈評価損〉
修理代以外にも、事故歴が付いたことで評価が下がった分に関する損害を請求できる場合があります。ただ、認められるのは比較的新しい車であること、それなりに価格の高い車であること、が求められる場合が多いようです。また、基本的に骨格部分まで損傷が及んでいる場合でないと認められないと考えられます。また、その損害額としては修理代の10%から30%程度のことが多いようです。必ずしも査定の差額というわけではない点に注意が必要です。ただ、価値の低下について鑑定してもらって証拠とすることもあります。
当事務所では、評価損についても交渉して増額を勝ち取った経験があります。
〈全損の場合の補償〉
なお、全損と判断されると、修理代の請求ということではなく、自動車の損害については、その時点での経済的な価値に対する補償しか認められなくなってしまいます。これは、物理的に修理ができない場合のみならず、修理費用が車両の現在の価値を上回る場合も全損扱いとなります。このような場合のことを経済的全損を言います。
全損の場合は、上記の車の価値以外に、買い替えにかかる費用(いわゆる買換え諸費用)がある程度認められるのが原則です。買換え諸費用についても、相手方保険会社からの提案は一般に認められる項目の一部が抜けていることもあり、被害者側代理人の立場では、丁寧な検討と交渉が必要です。
〈それ以外の損害〉
車の中に積んでいた物が破損した場合や、オートバイに乗車中などで事故により衣服が破れた、腕時計が壊れた、などの損害が生じた場合には、それらについても損害賠償を請求できます。仕事のために車を運転していた場合には、仕事で使う道具や材料を積んでいた等、思わぬ損害を被ることがありますが、それらについても事故との相当因果関係があれば損害賠償の請求が可能です。
ただ、新品の購入費が補償されるわけではなく、減価償却がされます。すなわち、経年劣化により価値が下がっていれば、その時点での価値での補償ということになってしまいます。
また、自動車と比べるとそれ以外の物の価値の立証が困難な場合も多く、そのような場合には、一般的な価格を元に推定で請求、示談せざるを得ない場合もあります。レシートなど購入時の資料があれば、比較的正確な計算をしてもらうことができると思われます。また、損傷したものの写真を求められることが多いので、写真をとり、念のため損傷した物自体も示談が終わるまでは保管しておきましょう。
〈代車費用〉
事故車両が生活や事業に必要であった場合には、代車費用の請求ができると考えられます。保険会社側で手配してくれることも多いですが、修理や買換えに必要な合理的期間についてしか認められず、長引くと返却を求められることも多いです。必要以上に長く借りていたと判断されると費用の一部を負担するように求められかねないので、修理にしても買換えにしても早めの判断が必要だと思います。ただ、その前に損害賠償の交渉を進めておきたいという場合もあるでしょうから、やはり、事故に遭ったら早めに弁護士に相談いただければ、と思います。
弁護士に依頼せずに自身で車の評価額や買換え諸費用について延々と交渉しているうちに時間が経って代車についても引き上げを求めれる、というようなことがあっても良くないので、代車を借りている場合は早期相談の必要性は高いといえるでしょう。
〈過失割合〉
過失割合は物損事故でも問題になります。
一般道での四輪車どうしの追突事故では通常は追突された側には責任はないことになり、そういう場合は、自車の修理代を相手方に請求することができます。(ただ、止めていた場所により10:0にならない場合はあります)
一方、信号のない交差点での出会いがしらの事故のように双方に責任があるとされるケースも珍しくありません。そこで、問題になりうるのが、過失割合です。交通事故は、基本的に、加害者の故意又は過失(注意義務違反)により発生しますが、被害者側にも過失がある場合があり、被害者と加害者、事故発生の原因における責任問題として、それぞれの過失が度の程度あるのか、その割合を「過失割合」といいます。
自己過失(被害者の過失)分については加害者に請求することができず、このことを、「過失相殺」といいます。
また、過失があると、自身の請求できる賠償額が減額されるだけでなく、相手の修理費用等も負担しなければならない可能性があります。
例えばですが、被害者Aさんと加害者Bさんの過失割合が、Aさん対Bさん=20対80だとしましょう。そして、Aさんの負った損害額が100万円だとします。
そうすると、Aさんは、自己の過失にあたる20パーセントの部分はBさんに請求できなくなるため、Bさんに請求できる金額は80万円となります。
残りはAさんが自己負担をするか、自身の保険から払われるものがあれば、そこから填補することになります。
また、Bさんの損害が0円の場合には、話はここで終わりですが、交通この場合、加害者の方が無傷とは限りません。ここでは、Bさんに20万円の損害が生じているとしましょう。
そうすると、この事故において、Aさんも20パーセントは責任があることになるので、Bさんに生じた損害のうち、20パーセントはAさんが負担しなければならないことになります。
したがって、今回の事故の最終的な賠償は下記のようになります。
- AさんがBさんに請求できるもの
Aさんの損害の8割=80万円
- BさんがAさんに請求できるもの
Bさんの損害の2割=4万円
そして、このような場合に、Bさんが一度払って、Aさんがまた払うということは、手間もかかり、送金手数料も無駄になることから、通常は、Bさんが支払うべき80万円から、Aさんが支払うべき4万円を引いた76万円が、AさんからBさんに支払われることになります。
このように、過失割合は賠償額に直結する重要な要素といえます。
なお、もし自分の過失が1割であれば相手方の修理代の1割は支払わないといけないはずですが、その部分を免除する9:0という示談が行われるケースもあります。
〈時効に注意〉
改正後の民法において人身傷害の消滅時効は5年ですが、物損は3年です。人身事故でも物損部分は3年で時効にかかります。比較的短いので、注意が必要です。
〈弁護士にご相談を〉
上記のように、物損に関しても全損扱いの妥当性、その場合の補償額、評価損の請求の可否や金額、過失割合、など揉める要素は多数あります。
特に過失割合が賠償額に与える影響は大きく、損害が高額になればなるほど、1割の重みが大きくなってきます。
保険会社は、交渉を有利に進めるため、些細な事情であっても過失として主張してきますし、加害者に不利な事情があっても、それを自ら教えてくれることはありません。また、人損がある場合には、物損での合意内容が人損についての交渉に影響する可能性も否定できません。
焦って示談をする前に、ぜひ多摩中央法律事務所にご相談下さい。
特に、弁護士特約が付いている場合は、原則として自己負担なしで依頼することができますので、ぜひご相談いただければ、と思います。
(弁護士特約の利用の可否や内容等についてはご自身の保険会社にご確認をお願いします)