【コラム】訴訟をすれば必ず金額が増えるのか?

保険会社との任意交渉で「赤い本」の表通りの提案が来るとは限らない

交通事故の被害について、本人が相手方保険会社と交渉すると、当初は自賠責と同じレベルの慰謝料を提案してくるなど、かなり低い額での提案が来ることも多いです。そこで弁護士が入ると、慰謝料について、「赤い本」の満額で提案が来ることもありますが、8割か9割しか応じられないという回答が来る場合もあります。そういう場合、訴訟にすれば、確実に金額が増えるのでしょうか?

そもそも「赤い本」とは?

いわゆる「赤い本」は、正式には『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(日弁連交通事故センター東京支部編)です。発行しているのは日弁連交通事故センターであり、公的機関によるものではありません。もちろん、法的拘束力があるわけでもありません。しかし、判例を分析して作成されたものであり、裁判所でも基本的には、この本の記載されている基準に従って判断されることが多いです。
そこで、「赤い本」の基準のことを裁判所基準ということもあります。

訴訟にすると

では、裁判所基準というくらいなので、訴訟にすれば、必ず、この基準に従った金額になるでしょうか? 実は、そうとも限りません。なぜなら、以下のような争点が顕在化することがあるからです。

① 事故と治療の因果関係

治療を受けたことやそのために費用が発生したことは診断書や診療報酬明細書から認められるとしても、その治療が交通事故の結果必要になったものかというところで争われることがあります。被害者の心情としては、事故に遭わなければ病院に行くわけがない、と一蹴したいところだと思います。しかし、事故の後すぐに病院に行かずに少し間が空いている、途中から異なる部位を治療している、本件事故の結果生じるとは考えにくい症状についても治療している、以前から同様の症状があってそれを治療している、などで、本件での治療は事故と因果関係がないと反論されることがあり、治療したのが事故から生じた症状であることを合理的に説明できないと、治療の必要性が認められないことになりかねません。そうすると、治療費はもちろん、通院慰謝料も認められないことになってしまいます。

② 治療期間の適切性

上記①とも関連しますが、仮に事故から一定期間の治療については事故との因果関係が認められたとしても、ある時期以降の治療は必要なかった、あるいは、事故との因果関係がない症状についての治療である、とされると、その時期以後の治療費は認められず、入通院慰謝料の対象となる期間もその時期までとなってしまいます。

③ 休業の必要性及び期間の適切性

治療の必要性や期間の適切性とは別に、休業損害の必要性と期間の適切性の問題が生じ得ます。すなわち、負傷したからといって仕事ができなくなるとは限らず、また、事故当初は休まざるを得なかったとしても、実際に休んだほどの長期間休む必要はなかったということで一定の時期以後の休業について必要性を争われる場合があります。

④ 後遺障害による逸失利益について

後遺障害が認定されると、その等級に基づいて決められた労働能力喪失率と従来の収入、それに労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数をかけあわせて逸失利益を計算できます。
しかし、現実に収入の低下がないから逸失利益はない、あるいは実質的には労働能力の喪失はない、というような反論が出てくることがあります。醜状障害の場合にはよく主張されますが、それ以外の場合でもありうる主張です。

⑤ 過失割合

過失割合についても、争いが生じ得ます。追突やセンターラインオーバーの場合のように原則10:0という場合もありますが、多くの場合、例えば、車線変更に伴う同一方向進行の四輪自動車どうしの場合は原則7:3、路外から入ってくる車と直進車の場合は原則8:2、などという形で双方に過失があるのが原則となっています。
それを必要に応じて具体的な事実に基づいて修正して、過失割合を確定させるのですが、双方の見解が食い違うと、最終的には裁判所が判断することになります。したがって、必ずしも被害者の考えていた割合が認められるとは限らないということになります。

⑥ その他

物損に関してまだ示談していない場合は、修理費や評価損、全損の場合の買い替え諸費用、などについて争われる可能性があります。また、上記以外にも、付き添い費、入院雑費、通院交通費(タクシー利用時は特に)、など様々な項目について争われる可能性が出てきます。

上記のように、訴訟では様々な項目について争われる恐れがあります。上記は代表的なものを列記しましたが、他にも争点が出てくる可能性はあります。提訴前に保険会社側からそのような主張が出ていなかったとしても、訴訟に移行することで相手方も改めて事故に関する資料を精査して新たな争点を組み立てて主張してくるということがあり得ます。そして、もし、保険会社側の主張が通ってしまうと、交渉の際の提案より低い金額になってしまうこともあり得ます。
もちろん、あくまで可能性あり、逆にすべての争点で原告(被害者)勝利となり、金額が大幅に増える場合もあります。判決の場合は、入金までの利息日まで民事法定利率による利息が付くこととなっており、また、弁護士費用として認容額の1割を別途認められるのが一般的なので、その分も考えれば、訴訟でうまくいけば金額が増えるのは事実です。

判断が付かないときどうするか?

保険会社に言われた額で示談するか、訴訟をするか、判断が付かないときは、どうすればよいでしょうか? これについては、弁護士に依頼していれば、弁護士が記録を精査し、訴訟をした場合のメリットとリスクについて検討、その上でご依頼者様に説明します。その上で、訴訟をするかどうか、をご判断いただければ、と思います。もし、よくわからないからまかせる、ということであれば、弁護士に判断で方向性を決めて進めていくということになると思います。
当事務所でも、多くの交通事故訴訟を扱ってきたので、経験を踏まえて検討、判断を行いご依頼者様に説明することができます。まずはご相談ください。

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