【コラム】当事者尋問の進め方

当事者尋問とは?

当事者尋問とは、裁判の当事者、すなわち、原告か被告を裁判所に呼んで尋問することを言います。証人尋問という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、民事訴訟法では、第三者を尋問する手続きを証人尋問、当事者を尋問する手続きを当事者尋問と呼んで、区別しています。

当事者尋問の内容は、調書に記録され、証拠となります。ただし、交通事故訴訟でいえばドライブレコーダーの画像や防犯カメラの画像のように客観性がある証拠と比べると、証拠としての力が弱いという面はありますが、裁判官が当事者の供述を直接聞くことができる手続きであるため、重要な証拠方法であることに違いはありません。また、陳述書のように一方的に述べたものと異なり、相手方による反対尋問の機会が保障されているため、証拠としての力はそれなりにあるとも言えます。

なお、当事者尋問は、民事訴訟一般に用いられる手続きですが、この記事では交通事故に関する民事訴訟を念頭に解説を書いていきます。

どのような場合に当事者尋問が行われるか

物証(物が証拠になる場合のその証拠をこのように呼びます)のみでは争点についての判断に不十分だと思われるときで、当事者の認識している事実が争点の判断において意味を持つと思われる場合に行われます。交通事故訴訟だと、過失割合、休業の必要性、後遺障害の実態、慰謝料の額の相当性、など様々な争点について、行われることがあります。もちろん、複数の問題について、事実関係が質問対象となることも珍しくありません。

なお、当事者尋問の実施は、裁判所が一方的に決めるのではなく、当事者が申請して裁判所がそれを認めるという形で行われます。

当事者尋問の事前準備

当事者尋問は法廷で行われますが、その成否は、実はそれ以前の準備の段階である程度決まっていると言っても過言ではありません。すなわち、事前の十分な準備がなければ、当日、自分の側の当事者から良い証言を引き出すことはできず、また、何が問題かを把握していなければ、反対尋問で効果的な質問をすることもできないからです。

では、事前の準備はどのように行うのでしょうか? ここでは、交通事故被害者の視点で記事を書いていますので、当方が原告だと想定します。まず、当事者尋問を行う場合、事前に陳述書を出すのが原則です。その陳述書は、それ自体証拠となるものですが、それに基づいて尋問を行います。(この点は以前の記事に書いた通りです)

陳述書の内容は当然、本人が経験した事実を書くのですが、何に触れるべきか、どの程度具体的に書くべきか、など書き方については弁護士からアドバイスをします。そうして、出来上がった陳述書や、尋問事項書等を確認しながら打ち合わせを行います。

まず、一般的な説明として、「法廷での証言なので、必ず、記憶の通り答えてください。覚えていないときは、覚えていないと言ってください」ということと、「一問一答なので、聞かれたことにそのまま答えてくださいね」という原則を説明し、それから、具体的に、どういう内容について聞く予定かを説明し、必要に応じて、リハーサルのようなことも行います。このような形で準備をしておかないと、当事者は、いきなり聞かれたから答えられなかった、あらかじめ言って欲しかった、というようなことになりかねません。それゆえ、事前の打ち合わせは重要です。

同時に、相手方の陳述書も来ているはずなので、弁護士はそれについても検討します。ここでは、反対尋問で何を聞くべきか、を、どの事実が相手方の主張の根拠になっているか、ということから考え、それを崩すにはどうすればいいか、と考えて反対尋問の質問内容を考えます。そうして、当日に、供述の矛盾や客観的事実との不一致を導き出せれば、相手の供述の信用性は揺らいだと言えるでしょう。また、重要な事項について相手方の回答が曖昧な場合も、やはり、信憑性の低さを印象付けることに成功したと言えるでしょう。この辺りは弁護士の技術であり、基本的に当事者の方に考えていただく部分ではないので、ご安心ください。

当事者尋問の流れ

当事者尋問の当日は、まず、

原告に対して

主尋問 →反対尋問 →補充尋問

の流れで行われ、その後、

被告に対して

主尋問 →反対尋問 →補充尋問

という流れで行われるのが基本です。

主尋問は、それぞれ、その当事者の代理人弁護士が行い、反対尋問は相手方の代理人弁護士が行います。補充尋問は、裁判官による尋問です。

当事者は、メモなどの文書を見ながら回答することは例外的な場合を除いて認められません。あくまで、ご自身の記憶にあることを答える必要があります。

時間は、ケースによりますが、それぞれ、1時間を超えることはまずありません。あらかじめ、主尋問20分・反対尋問20分、などという形で時間は制限されます。(上記時間は一例です)

主尋問は、自分の側の弁護士が行うのであり、あらかじめ何を聞かれるかは打ち合わせてあるわけですから、あとは、記憶の通り回答するだけであり、それほど難しくないと思います。

問題は、反対尋問です。反対尋問は相手方の弁護士が、あなたの証言の信憑性を崩すために行います。そして、反対尋問で具体的に何をどのように聞かれるかは、相手方の弁護士以外は知らないわけです。それゆえ、何を聞かれるかわからず不安、という方も多いと思います。ただ、反対尋問は主尋問の範囲に限定されるので、実際のところは、何を聞かれるのか全く分からないというわけではありません。相手方の代理人弁護士は、あなたが提出した陳述書や当方の代理人が提出した尋問事項書を参考に反対尋問で触れることを決めているはずであり、主尋問で聞かれていない全く関係ないことを聞かれることは基本的にありません。ただ、主尋問で聞かれた事項の他に、証言の信用性に関する事項も訊けることになっているので、突然関係ないことを聞かれた、と感じることもあるかもしれません。全く無関係な質問やその他民事訴訟規則で禁じられているとも受け取れる質問であれば代理人が異議を述べることもありますが、そうでなければ、慌てずに、記憶しているところを答えて頂くということになります。

当事者尋問の後

当事者尋問は、それを元に調書が作成されます。調書には尋問内容が文字化して記載されており、これは証拠となります。証拠にするために特に手続きは必要なく、その後準備書面を出す場合は、そのまま引用することができます。(ただ、当日終結のことも多いです)

*なお、簡裁の場合は調書作成が省略されることもあります。

また、当事者尋問を行なった日は、双方の当事者がそろっているということで、和解の話し合いが行われることも多いです。和解が成立すれば、そこで裁判は終わります。

和解が成立しなければ、尋問後は、それほど期日を入れずに結審となることが多いです。なぜなら、尋問は双方の主張が出尽くした後に行われるのが基本だからです。もし、早い段階で尋問をしてから争点が出てきたら、それについて再度尋問を行うのかということになり、効率が良くないので、そういうことはせず、双方の主張が出そろってから最後のほうに行うことになっています。

まとめ

当事者尋問は客観的な証拠と比べると証拠としての力は強くはないと考えられますが、反面、裁判官が直接当事者から話を聞いて心証を得る事ができる貴重な機会であり、案件によっては、結果に影響を与えることは充分にあり得ます。それゆえ、事前に弁護士とよく打ち合わせて、充分準備をした上で臨みましょう。

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