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利益相反とは?
弁護士は、ある依頼者の利益と他の依頼者の利益が対立する事件を受けてはいけません。例えば、一つの交通事故の加害者と被害者の両方から依頼を受けることはできません。なぜなら、依頼者の利益のために活動しないといけないところ、2名の利害が相反する人から依頼を受けた場合、片方の利益のために仕事をするともう片方の不利益になってしまうからです。
このコラムでは、上記の「利益相反」という問題について、交通事故の被害者側の車に同乗者(運転者以外に乗っていた人)がいる場合について、考えてみます。
交通事故の被害者に同乗者がいる場合
交通事故の被害者の車に同乗者がいた場合、その同乗者も加害者に慰謝料などの損害賠償請求ができます。この場合、追突など過失割合が10:0の場合は、そのまま加害者に請求すれば問題ありません。(追突でも例外的に被害者側にも過失がある場合は別途検討が必要です)
では、9:1、など、被害者側にも過失がある場合は、いかがでしょうか? この場合、同乗者の方は、過失割合に応じて加害者と被害者側の運転者に請求しても良いのですが、実は、全額をいずれかに請求することができます。なぜなら、双方に過失がある場合、双方の運転者は被害者に対して不真正連帯債務を負うと解されているからです。
なお、片方が全額を支払った場合は、支払った方は、過失割合に基づいてもう片方に求償の請求ができると解されます。したがって、公平は保たれると考えられます。
同乗者も同じ弁護士に依頼できるか?
では、被害者の車に同乗者がいた場合、同乗者も被害者(被害車両の運転手)とともに同じ弁護士に依頼して加害者に損害賠償請求をすることができるでしょうか?
実は、ここで、場合により、同じ弁護士への依頼が難しい場合があります。まず、被害者側に過失がない場合は問題ありません。例えば、追突された車に複数の人が乗っていた場合、弁護士はその全員から依頼を受けることもできます(例外的に追突された側にも過失がある場合を除く)。この場合、加害者側の車の運転手に損害賠償を請求することになります。それ以外に、使用者責任や運行供用者責任を追及できる場合もありますが、いずれにせよ被害者相互間の請求はありません。
また、被害者側の運転者にも過失がある場合でも、同乗者が家族の場合は基本的に問題ありません。なぜなら、家族内で互いに請求することは考えにくいからです。
しかし、同乗していたのが家族以外の場合、被害者側の車の運転者にも過失がある場合は、いずれ、同乗者から運転者へ損害賠償請求をすることになる可能性があります。前述の通り、同乗者は双方の運転者のいずれに対して請求しても良いのですから、被害者の側の運転者に請求することも考えられます。また、加害者側に請求して加害者が求償権を行使して被害者側の運転者に請求すれば、やはり、被害者側の運転者の不利益になります。そうすると、被害者側の運転者から依頼を受けている弁護士から見ると、自分の依頼者と利害関係が対立するとも考えられます。いわゆる利益相反です。そこで、このような場合、被害者車両の運転者と同乗者の両方から同じ弁護士が依頼を受けることは難しくなってしまいます。このような場合は、同乗者の方は他の弁護士に依頼することが望ましいと言えます。
同じ弁護士に依頼できる場合・できない場合(まとめ)
以上をまとめると、
被害者に過失がない場合・・・同じ弁護士に依頼できる
被害者に過失はあるが同乗者が家族の場合・・・原則として同じ弁護士に依頼できる
被害者に過失があり同乗者が知人や友人の場合・・・原則として同じ弁護士に依頼できない
となります。なお、これは原則であり、例外もありますので、まずは弁護士にご相談ください。