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逸失利益の基本的な考え方
ここでは、後遺症による逸失利益について,解説します。
後遺障害による逸失利益とは、交通事故の後遺障害により働く能力が低下ないし失われたことによる損失をいい、後遺障害が残った場合には、補償の対象になります。
その基準となるのが「後遺障害別等級」です(等級は慰謝料の算出にも用いられます)。
後遺障害別等級は第1級から第14級に分かれています。その等級によって、労働能力喪失率が異なり、等級が重いほど大きくなります。例えば、14級だと5%ですが、12級の場合は14%、1級の場合は100%となっています。
なお、通常は、逸失利益は後遺障害の等級認定を得てから請求しますが、認定を得られなくても、訴訟で認められる場合もあります。(ただし、認定を得られていない場合に訴訟で勝ち取るためには立証活動に困難が伴う可能性が高いので、納得のいく等級を得られない場合はできる限り等級認定を得るために異議申立て等の活動を行うべきだと考えます)
逸失利益を求める際の基礎年収
逸失利益の収入は基本的には次の年収を使い、計算します。
- 有職者・・・・・直前の収入
- 主婦・・・・・女子労働者の全年齢平均賃金
- 失業者・・・・失業前の賃金、または男女別前年例平均の賃金
- 学生、幼児・・・男女全年齢平均賃金
なお、会社員、公務員などの務め人の場合は、計算の基礎となる収入として、前年の収入を用いるのが基本ですが、状況により将来の昇給も考慮されることがあります。
自営業者の場合は、前年度の収入を基礎にする(納税申告により算出する)のが一般的です。
基礎年収×労働能力喪失率×ライプニッツ係数、で計算するので、基礎年収が高いほど、また、労働能力喪失率が大きい(後遺障害が重い)ほど、金額は大きくなることになります。
ただし、醜状障害などで現実の収入低下の可能性が低い場合や現実の収入低下がない場合には認められなかったり、減額の可能性もあります。
ライプニッツ係数は、本来は日々発生する逸失利益を一括で受け取るので、それによる利息分を調整するための係数ですが、当然、喪失期間が長いほうが受け取る金額は大きくなります。ただ、単純に年数をかけるよりは小さくなるので、その点に注意が必要です。
逸失利益はいつまでの分で計算する?
後遺障害は、一生続くというのが基本的な考え方で、67歳までの労働能力低下を前提に計算するのが原則です。ただし、むち打ちで14級の場合は、5年程度で回復すると考えて、5年間で計算するのが現在の実務の一般的な傾向だと思われます。(症状や業務内容によってそれを超える期間について認められた場合もありますが、例外的なケースと考えられます)
その他、必ずしも67歳までの分が認められるとは限りません。この点は、状況によっては、弁護士による交渉や訴訟で結果が変わる場合もあります。
一方、高齢の方の場合には、平均余命までの2分の1という基準を用いることがあります。(67歳を過ぎている場合や、67歳までの期間よりその期間の方が長い場合)
等級認定にも関わらず逸失利益が認められない場合
また、等級認定がされれば自動的に支払われるというわけではなく、収入の低下が見込まれないことを理由に争われることもあります。例えば顔に傷が残ったとしても接客業ではないから収入に影響しないはずというような反論をされることがあります。そのような場合には、交渉や訴訟で争うことが考えられますが、慰謝料を増額することで代わりにするという結論になることもあります。(事案によります)
また、実際の収入が低下していない場合には逸失利益は認められないのが原則とされていますが、労働能力が客観的に見て低下しているけれども本人の努力で収入を維持しているなど、特段の事情があれば認められる可能性があります。
通常より高めの労働能力喪失率が認定される場合
一方、就労に対する影響が大きいことを理由に労働能力喪失率を認定された等級の通常の場合と比べて高めに認めた判例も多数あります。(非該当でも労働能力喪失を認めて逸失利益を認定した判例もあります)
ただ、通常より高めの労働能力喪失率を認めてもらうためは、十分な主張、立証が必要であることはいうまでもありません。
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