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逸失利益の期間についての基本的な考え方
逸失利益は、後遺障害に伴う労働能力の低下による収入低下のことを言います。その補償額は、
基礎収入(事故前の収入)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
で計算されます。労働能力喪失期間をそのままかけないのは、将来生じる損失について一括で支払われるため、利息分を調整する必要があるからです。つまり、一括で支払われれば、利息が付くから増えるはず、その分を調整する、という考え方です。ライプニッツ係数は一括で支給されることによるメリットの分を考慮した上で、期間に応じて数値が定められています。
改正民法施行後の事故の場合は利息3%、改正前の場合は5%を前提としたライプニッツ係数が使われ(改正民法施行は令和2年4月1日)、改正後のほうが同じ期間なら額は大きくなりますが、いずれにせよ、期間が長いほど数値が大きくなるのは当然です。そこで、労働能力喪失期間がいつまでか、ということが重要になってきます。
なお、始まりは症状固定の時です。それ以前の労働能力喪失による損害は休業損害として支払いを求めることになります。
一般的な労働能力喪失期間の計算方法
労働能力喪失期間は、通常、67歳まで、とされます。なぜなら、一般に67歳までは仕事をするだろうという想定があるからです。ただ、むち打ちなど神経症状の場合は14級だと症状固定から5年間、12級だと症状固定から10年間、程度に制限されることが多いです。
症状固定時に67歳以上の場合
では、症状固定時ですでに67歳以上だと、ゼロなのでしょうか? 実は、必ずしも、そういう計算はしません。一般には、67歳以上の場合は、平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とします。
もっとも、そうすると、67歳以上の場合のほうが67歳に近い67歳未満の人より労働能力喪失期間が長くなるケースが出てくるように思うかもしれませんが、そういうことが起きないように、67歳未満の場合でも、67歳までとした場合に平均余命の2分の1より小さくなる場合は、平均余命の2分の1を使うこととされています。
すなわち、
1、逸失利益は基本的には67歳まで
2,症状固定時で67歳以上の場合は平均余命までの期間の2分の1
3,1の方法で計算して2より短くなる場合は、2を用いる
ということになります。
個別の考慮はされるか?
もっとも、何歳まで働けるかは人にもよるし、職種によっても異なる、という疑問もあるでしょう。そこで、「赤い本」(令和3年版105ページ)によると、職種、地位、健康状態、能力、等により上記原則と異なった判断がされることがある、とされています。
特に、高齢の場合、個人差も大きいですので、症状固定時点で67歳以上の方も、等級認定がなされた場合、個別の主張が考慮される余地は大きいと思います。もっとも、必ずしも被害者に有利な方向の考慮とは限らず、標準より短い期間が加害者側から主張されることもありうるので、注意が必要です。
基礎収入について
また、逸失利益は基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数で計算されるので、基礎収入があることが必要です。現に仕事をしているか、少なくとも仕事をすることができる可能性が高かった場合であることが必要なので、高齢で仕事をしていない場合には、この点が問題となり請求できないことも多いです。ただ、微妙なケースもありますので、まずは弁護士にご相談ください。
まとめ
高齢者にとって逸失利益は関係ない、あるいは、大きな額にはならない、と思い込んでおられる方もいると思います。しかし、上記のように67歳以上でも基礎収入があれば、逸失利益は請求できるのが原則です。基礎収入が大きいと、意外と大きな額になることもあります。高齢の方の場合、収入が多いことも珍しくなく、特に専門職や企業の上層部におられる方の場合、基礎収入がかなりの額に上ることもあります。そこで、67歳上でも仕事をしている方は、逸失利益の請求も忘れないようにしましょう。一時的に仕事をしていなかったとしても認められることもあるので、まずは弁護士にご相談ください。