交通事故にあって病院で治療を受ける場合、治療費の支払い方には、健康保険を使用し、全体の医療費のうちの自己負担分の3割(現役世代の場合)を支払えばよい保険治療と、全額の医療費が自己負担分となる自由診療の2種類があります。交通事故の場合には、健康保険は使えないと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、一定の手続き(第三者行為被害届の提出)を経れば使用可能です。
交通事故の加害者が任意保険に加入している場合には、自由診療扱いにして、相手方保険会社が医療費全額を医療機関に直接支払うことが多いです(任意一括)。しかし、加害者が任意保険に加入している場合であっても、あえて被害者自身の健康保険を使用して、保険治療とした方がよい場合があります。このコラムでは、保険治療を行った方が良い場合について、解説します。
このページの目次
1 こんなに違う 自由診療と保険治療
保険治療の場合、医療費は公定され、全国一律です。具体的には、医療行為毎に点数が定められ、1点=10円で計算されます。さらに、実際に患者さんが窓口で支払うのは、この医療費に年齢に応じた自己負担割合(1~3割)をかけた金額であり、残りは健康保険から医療機関へ支払われる仕組みになっています。
一方、自由診療の場合には、1点いくらとして計算するかは医療機関毎に異なり、1点=20円程度で計算されることが多いです。そして、全額自己負担です。
そのため、たとえは、現役世代の方が、保険点数が1000点の医療行為を受けた場合、保険治療であれば、自己負担額は、3千円(1000点×10円×3割)ですが、自由診療では2万円(1000点×20円)程度になります。
2 相手が任意保険に加入している場合には自由診療が多い
交通事故の加害者が任意保険に加入している場合には、自由診療扱いにして、相手方保険会社が医療費全額を医療機関に直接支払うことが一般的です。
ただし、下記に述べるように、被害者に過失があると思われる事案等では、相手方任意保険会社が健康保険の使用を勧めてくれることもあります。
3 健康保険を使用した方がよい場合
(1)加害者が任意保険に加入していない場合
加害者が任意保険に加入していない場合には、被害者の方がまずは一端医療費を立て替えて医療機関に支払うことが必要になるでしょう(その後、当該医療費を自賠責保険にまずは請求をした上で、それでは足りない部分を加害者本人に請求することが一般的です)。この立て替えた医療費を確実に回収するために、なるべく医療費総額を抑えておくことが望ましいので、健康保険の使用がお勧めです。
(2)被害者にも過失がある場合
被害者の方に過失がある場合、被害者側の責任相当額が賠償総額から差し引かれることを過失相殺といいます。例えば被害者の方に2割の過失がある場合、慰謝料なども含めた賠償総額から過失分の2割分が差し引かれ、8割分だけが被害者に支払われます(自賠責に対する請求のみの場合には異なります)。これは医療費単体で見ると、かかった医療費の8割しか相手に負担してもらえず、残りは自己負担となってしまうということです。そうすると、自己負担額を少しでも抑えるために、健康保険を使用して、医療費総額をなるべく低額にしておくことが必要です。
被害者の方に過失があることが明らかな場合には、相手方の任意保険会社が健康保険の使用を最初から勧めてくれることもありますが、そうでない場合には、被害者の方自身で健康保険適用の申し出をする必要があります。また、治療が全て終了して示談の段階になって初めて、過失の話が出てくる場合もあり、結果過失が認められてしまうと、自由診療の場合、自己負担となってしまう金額が高くなってしまいます。少しでも被害者に過失が認められる可能性がある場合には、健康保険の使用がお勧めです。
(3)素因減額の可能性がある方
今回の交通事故で負傷した部位に、事故前から疾患を抱えていたという方は、事故前から存在していた疾患が原因で今回の交通事故の治療が長引いたり症状が重くなって損害が拡大したと認められてしまうと、上述の過失相殺と同じ処理がなされる可能性があります(素因減額)。過失相殺同様、素因減額も治療終了後示談の段階になって初めて出てくることもあるので、素因減額の可能性がある方は、健康保険の使用をお勧めします。
4 まとめ
以上、健康保険を使用した方がよい場合について説明させていただきました。一度自由診療で診察を受けて支払いを完了してしまうと、その分を遡って健康保険適用にしてもらうことは原則としてできません。「健康保険を最初から使っておけばよかった!」と示談の段階になって後悔しないように、このコラムが参考になれば幸いです。