当事者尋問

1、交通事故訴訟における当事者尋問とは

 交通事故の被害者が起こす訴訟は民事訴訟です。(刑事訴訟については、行うかどうかは、被害者の意見も聞かれますが、検察官が決定します。なお、不起訴とされても検察審査会による議決で起訴につながる場合もあります) 民事訴訟における当事者尋問とはどういうものでしょうか?
 簡単に言うと、裁判所で、訴訟の当事者である原告及び被告に対して行われる尋問です。証人尋問とよく似ていますが、証人尋問は当事者ではない第三者(例えば事故を目撃した人)に対して行われるのに対して、当事者尋問は訴訟の当事者(通常は事故の被害者である原告と加害者である被告ですが、異なる類型もあります)に対して行われることが異なります。

2、当事者尋問はどのような場合に行われるのか?

 例えば、過失割合について揉めているときに、裁判所はまず実況見分調書を参考にして事故に関わる事実を知ろうとします。しかし、実況見分調書だけでは何が正しいかわからない場合もあります。当時の速度、相手方に気が付いた位置、ブレーキを踏んだタイミング、信号の状況、その他様々な要素はすべてが調書に書かれているわけではないですし、調書の内容が正しいとも限りません。実況見分調書の信憑性について争われるケースも珍しくないのです。そこで裁判所は当事者を尋問することで、事実を知り、判断の材料にしようというわけです。  

 その他、休業の必要性が争われた場合に当時の症状や休業の必要性について問題になったり、治療の必要性について見解が対立しているとき、などに、書証(書面の証拠)に対する補充的な意味で行われることがあります。もちろん、診断書やカルテなどの医師による専門的な書面が重視されますし、当事者は自らの見解を述べた陳述書という書面を出すこともできるのですが、裁判所としては書
面だけではわからない部分を尋問で明らかにしたいと考える場合があります。

 当事者尋問をするかどうかは、基本的に裁判所の考えで決められますが、尋問の申請は当事者が行う必要があります。もちろん、代理人弁護士が代わりに行うこともできます。(代理人が付いていれば通常は本人の意向を踏まえて代理人が申請します)

3、当事者尋問はこのように進む

 まず、原告を尋問する場合には、原告の代理人弁護士が主尋問を行います。これに対して、被告の代理人弁護士が反対尋問を行います。最後に裁判官が補充的に尋問を行います。被告を尋問する場合は、主尋問を被告代理人弁護士、反対尋問を原告代理人弁護士が行うわけです。
聞かれることとしては、例えば、過失割合が争われている場合だと、スピードはどれくらいだったか、どこで相手に気が付いたか、どこでブレーキを踏んだか、相手の車とどちらが先に交差点に入ったか、などが聞かれることが多いです。ただ、何が聞かれるかは事故の状況によるので、以上はあくまで代表的な質問事項です。
 また、休業の必要性が争われているときは、当時の身体的な状況の他、ご自身の業務内容、それを行うのにどういう支障があったか、(自営業だと)休んだことと売り上げ減少のつながり、などについて聞かれることが多いようです。治療の必要性(正当な通院期間)について争われているときは、当時の症状や治療の必要性について主観的な面が問われることになると考えられます。既往症があった場合はそれによる症状との違いについても聞かれるでしょう。

4、裁判所は当事者尋問をどの程度重視しているのか?

 裁判においては客観的な証拠が重要だというのは一般に言われることです。しかし、当事者尋問が軽視されているというわけではありません。交通事故事案においては、特に、過失割合に関しては、いずれの当事者の主張に信憑性があるかは書証だけでは判断しづらいこともあるので、当事者尋問が決め
手になることもあります。判決への影響としては、裁判官の心証が補強されることもあれば、変化することもあると考えられます。ただ、裁判一般の話として書証は重視されるので、当事者尋問だけで心証を形成するということは希だと思われます。つまり、例えば、過失割合について争われているのであれば、実況見分調書、現場の写真、事故車の写真や修理の見積書、ドライブレコーダー、防犯カメラの画像、など、客観的資料との整合性が重視され、それらを無視して当事者の主張のみで判断がされるということは考えにくいです。実況見分調書の本人供述に基づいて記載された部分と矛盾がある場合は、なぜ当時正確な記載をしてもらえなかったのかについて合理的に説明しないと調書の方が信用される可能性が高いといえます。また、休業の必要性や治療の必要性について争われている場合も、診断書やカルテなどの客観的な証拠が重視され、当事者の尋問における陳述は、あくまで補佐的な役割を果たすというべきでしょう。

5、当事者尋問で気を付けること

 裁判所での尋問ですから、事実をそのまま述べることは当然です。ただ、準備をしてないと、突然聞かれて動揺してしまい言いたいことが言えなかった、というようなこともありうるでしょう。そこで、主尋問に関しては、依頼している弁護士と事前によく打ち合わせてから望むのが一般的です。反対尋問は相手方の弁護士が行うので事前に打ち合わせるわけにはいきませんが、どういうことを聞かれる可能性が高いかはご依頼の弁護士に相談して心構えをしておくとよいでしょう。なお、当事者尋問は意見を言う場ではありません。それゆえ、あくまで事実を述べるべきであり、聞かれていないご自身の感想を述べないようにしましょう。
 また、一問一答式で回答する必要があります。例えば、弁護士に「あなたがブレーキを踏んだのは地図のBと書かれた地点で間違いないですか?」と言われれば、「はい」か「いいえ」で答えてください。「いいえ、Bのところではなく、Aと書かれているところです」という程度ならどっちみちその後聞かれるはずなので良いと思いますが、「はい、でも仕方なかったんです。その手前のカーブのところに生け垣があって向こう側が見えにくくて、だから決して不注意ではなくて・・」というように自分の主張を加えたり、「普段は徐行して走っているけど、その日は日曜日で近くの学校も休みで子供もいないはずだし、実際、人の姿が全然なかったから、まさか、そこで自転車が飛び出してくるなんて思わなくて」などと言い訳をすることに終始して聞かれたことへの答えになっていない返答はやってはいけないことです。裁判官に「原告(被告)は聞かれたことに(だけ)答えてください」と注意されるでしょう。
 もっとも、素人の方がいきなり法廷に呼ばれれば、つい、そういう回答をしてしまいがちです。そこで、当事者尋問の日程が決まったら、あらかじめ、依頼している弁護士とよく打ち合わせておきましょう。弁護士が付いていれば、尋問の期日の前に、弁護士の事務所で練習をするのが普通です。そこでなれれば、当日は、覚えている事実を的確に回答できるようになると思います。なお、自分を有利にしようとして覚えている事実と異なることを述べるのは絶対にやめてください。そのようなことをしてしまうと裁判の公正さが損なわれる恐れがあるからです。

 なお、当事者尋問の時間はケースによって異なりますが、例えば、主尋問20分、反対尋問20分、裁判官からの尋問20分、というような感じで、原告で1時間、同様に被告についても1時間、合計2時間というのが標準的なところです。

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