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逸失利益の理論と計算
後遺障害の等級認定を得た場合、逸失利益の補償を請求できるというのが原則です。
すなわち、後遺障害により働く能力が低下したことに対して、加害者か、それに代わって加害者側の保険会社が補償してくれるわけです。
その金額の計算方法は、原則として以下の通りとされています。
すなわち、
基礎収入×労働能力喪失率×症状固定から67歳までの年数についてのライプニッツ係数
です。
労働能力喪失率は例えば、14級だと5%、12級だと14%、というように等級に従って基準が定められています。ここで、単純に年数をかけるのではなくライプニッツ係数を用いるのは中間利息の控除のためです。すなわち、本来月々入ってきたはずの給与の分を一括でもらうわけなので、その分を考えて、ライプニッツ係数で修正しているわけです。
*なお、令和2年4月以降の事故の場合、適用されるライプニッツ係数がそれ以前の事故とは異なります。これは、民法改正により、法定利率が5%から3%に変更になったためです。
逸失利益の実際
では、この式に従って計算した逸失利益が必ず支払われるのでしょうか?
実はそうではありません。
まず、むち打ちの場合は、67歳まで、ではなく、5年分までしか認められないのが一般的です。場合によっては、それより短い3年を提示されることもあります。
また、醜状障害の場合のように職種等によっては収入に影響がしないと見込まれる場合は大幅な減額やゼロでの提示の場合もあります。そのような場合には、今後の収入が低下する可能性を示して交渉する、仮に逸失利益を少なめで示談せざるを得ない場合は代わりに慰謝料の増額を交渉する、などの方法が考えられます。
一方、判例によると、むち打ちでも症状が重く職種等により業務中に重い荷物を落ち運ぶことが多いなどの事情があれば5年ではなくより長い期間で計算することが認められた事例もあります。また、特別な事情があることで労働能力喪失率を通常より大きめに認めてもらえた事例もあります。保険会社からの提示に不満がある場合に、そういった例を引用して交渉することで交渉を有利に進められる場合があります。ただ、そのような場合、「こういう事例もあるから」というだけではなく、「こういう点がこの判例と共通する」「今回の事故の衝撃、診断書、カルテ、などをみると、通常より長引く、あるいは、労働能力低下が大きいのは明白」というように具体的に主張して行かないといけません。それは訴訟でも同様です。
このように、逸失利益の請求は必ずしも機械的にはできず、個々の事情に基づいた主張、交渉が重要になってきます。その際には、診断書、後遺障害診断書、カルテ(診療記録)、乗車していた自動車の修理見積書(事故の衝撃の参考になる)、など、資料を引用しつつ主張することが重要です。
弁護士にご相談
後遺障害の補償については、慰謝料についても高額になることが多いので重要ですが、逸失利益も同様に重要であり、かつ、理論的に様々な争点が発生しうるところです。そこで、交通事故に詳しくないと、なかなかしっかりとした交渉が難しいところだと思います。その点、交通事故案件を多く扱う弁護士は、このような交渉にも慣れており知識もあります。悩んでおられる方は、ぜひ、弁護士にご相談ください。